福島第一3号機臨界事故の保安規定違反1(異常時の措置)
福島第一3号機の臨界事故が当時の保安規定に抵触する可能性について,「異常時の措置」の条項についての考察してみました。
■異常発見時の措置
東電の報告書は「保安規定には,異常時の措置に関する規定はあるものの,予期しない臨界の発生に関する記載はない」とあります。これは明確には引っかかりませんよと言っているようですが,「異常時の措置に関する規定はあるものの…」というところは,異常時の措置の条項に引っかかる可能性を示唆しているようです。当時の保安規定にはこうあります。
(異常を発見したとき等の措置)
第40条 原子炉施設の運転状態に異常を発見した者は,その旨ただちに当直長に報告するものとする。
2.当直長は,前項の報告を受けた場合には必要な応急措置を講ずるとともに発電部長に報告(原子炉の運転におよぼす影響が軽微なものを除く。)するものとする。
3.発電部長は,前項の報告を受けた場合にはその原因を調査し,必要な措置を講ずるとともに所長および主任技術者に報告するものとする。
ここには何をもって異常あるいは異常時とするのかが書いてありませんが,次の第41条の中身とタイトルから,異常とは「原子炉が自動的にスクラムすべき事実が発生した」ことであると推察されます。
(異常時における原子炉の手動スクラム)
第41条 当直長は,原子炉が自動的にスクラムすべき事実が発生したと判断されるにもかかわらず,スクラム回路が作動しない場合は,ただちに手動により原子炉をスクラムしなければならない。
2.当直長は,前項の措置を講じたにもかかわらず原子炉がスクラムしない場合は,ただちにほう酸水注入系を作動させなければならない。
3.当直長は,前2項に定める場合には,遅滞なく所長,発電部長に報告するものとし,所長は,その後の措置について主任技術者の意見を求めるものとする。
「異常」の定義について,最近の保安規定はより明確で,以下のようになっています。
(異常時発生時の基本的な対応)
第76条 当直長は,原子炉施設に異常が発生した場合,当該号炉を所管する運転管理部長に報告する。なお,本節でいう異常とは,次に定めるものをいう。
(1)原子炉の自動スクラム信号が発信した場合。
(2)原子炉が自動スクラムすべき事態が発生したと判断される場合にもかかわらず自動スクラム信号が発信しない場合
(3)原子炉を手動スクラムした場合
臨界事故がスクラムすべき事実であることは明白なので,報告や原因調査などを行っていたのかどうかが問題になるでしょう。
■異常発見後の措置
次に異常発生後の起動時の措置についてです。
(原子炉スクラム後の措置)
第42条 当直長は、原子炉のスクラム後、その原因を調査のうえ、安全性の確認その他必要な措置を講じ、所長の承認を受けた後でなければ、原子炉を再起動してはならない。ただし、スクラムの理由が次の各号のいずれかに該当する場合は、所長の承認を受けないで原子炉を再起動することができる。
字面では,スクラムした場合につき,再起動の際に安全確認を要求しています。志賀1号機の場合,自動スクラム信号が発せられたが,挿入できずに手動で操作した。福島第一3号機の場合,制御棒ごとに手動スクラムするシングルロッドスクラムを行っています。
40条,41条の流れからすると,42条は,スクラムが実際がかかったかどうかが問題なのではなくて,スクラムをかけるべき異常時の後の措置としてみるのが,本来の主旨ではないでしょうか。スクラムをかけるべき事態でスクラムがかかった場合には安全確認を要求するが,スクラムをかける事態でスクラムもかけられなかったというより厳しい事態に対しては安全確認を要求しないというのはおかしいですよね。
最近の保安規定は
(異常収束後の措置)
第78条 当直長は,異常収束後,原子炉を再起動する場合は,その原因に対する対策が講じられていること及び原子炉の状態に応じて適用される運転上の制限を満足していることを確認する。
とあり,明確に異常時すべてを問題にしています。
臨界事故後,再起動に至るまでに東電は安全性の確認措置をとっていたのかどうか,東電は明らかにすべきでしょう。確認措置をとっていないあるいは不明確な場合には,保安規定に違反したとみなすべきでしょう。
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