原子炉戻りラインの撤去と制御棒駆動機構の構造的欠陥
臨界事故や制御棒引抜けに際して,制御棒駆動機構の構造的欠陥を認めず,手順だけを問題にする保安院は,各原子炉に1本ある原子炉戻りラインにつながる弁を開ける手順を確認さえすればよしとする原子炉戻り弁万能論に立っています。 ところが実際には,この原子炉戻りラインそのものがずっと以前に部分撤去されており,それが今でも続いていることが東電の報告書より明らかになりました。撤去の原因はラインが原子炉圧力容器につながるノズル部におけるひび割れでした。撤去されたラインにすがる保安院の姿勢には疑問を抱かずにはいられません。それに手順をいくら改めても制御棒の引き抜け・誤挿入が止まるところを知らないことの背景にある問題かもしれません。いずれにせよ、臨界事故や制御棒引き抜けが単なる手順の問題でなく、構造的な問題であることを明らかにしているのではないでしょうか。(図は東電の報告書より)
原子炉戻りラインの撤去と制御棒駆動機構の構造的欠陥
原子力安全・保安院は,臨界事故及び頻発する制御棒の引き抜けに際して,制御棒駆動機構に構造的欠陥があることを認めず,弁の操作手順の問題であるとしています。志賀1号機の臨界事故の発覚に際し保安院は,各地のBWRについて「原子炉停止時に制御棒駆動系について試験を行う際には,原子炉戻りラインの弁(制御棒引き抜きにつながる水圧の上昇を防ぐための弁)を開いておくこと…」(第3報)といった管理手順が定められていることを確認しただけあり,志賀1号機のように,停止して安全総点検を行わせる指示を出していません。保安院は,原子炉戻りラインの弁さえ開いておけばよいという原子炉戻り弁万能論を振りかざしています。
ところが,東電の報告書によると,各原子炉に1本しかない原子炉戻りラインは,福島第一3号機の臨界事故当時には部分撤去されており,今でも撤去されたままとなっています。具体的には,配管を一部撤去したうえで,配管側のフランジにふたをして,ノズル側にはキャップをはめているとのことです。撤去の原因は,そこのラインが圧力容器に入るノズル部で,温度変動に基づく熱疲労によると思われるひび割れが多発したためでした。東電の報告書によると,福島第一1・2号機についても同様に撤去されています。
*******************************
制御棒駆動水戻しラインの運用経緯について 東京電力より
(1)GEの当初設計では,制御棒駆動水系(CRD系)の系統水が原子炉圧力容器へ直接戻るライン(リターンライン)があり、プラント運転中、停止中ともリターンラインから原子炉へ注水される系統構成(リターン運転)となっていた。
(2)プラント運開当初より運転中・停止中ともCRD系をリターン運転で運用していたところ,1F1号機第5回定期検査時(昭和52年2月27日)の浸透探傷検査において制御棒駆動水戻しノズルの内面に数箇所にひびが発見された。
(3)制御棒駆動水戻しノズルには25℃~40℃の冷たい復水貯蔵タンクの水が毎分40~80リットル流入している。一方、炉水は高温(約280℃)のため,ノズル出口部付近で大きな温度差が生じ,温度変動に基づく熱疲労が生じたものと推定。
(4)ひびの再発防止のために以ドの対策が講じられた。
a.ひびの生じた部分をグラインダーで削り,除去した。
b.系統水が戻しノズルへ流入しないようにするため,リターンラインの一部を撤去し,ノズル側にキャップを取り付け,配管側のフランジにはふたを取り付けた。
(5)3号機第1回定期検査時(昭和52年5月28日),及び2号機第2回定期検査時(昭和52年6月17日)においても、浸透探傷検査において制御棒駆動水戻しノズルの内面に数箇所にひびが発見されたため、1号機と同様の再発防止対策を講じた.。
(6)以上の対策により、プラント運転中、CRD系のリターンラインから原子炉に注水しない系統構成(ノンリターン運転)とする運用となった。HCU隔離・復旧時にはリターン運転とする運用となったかは不明。
(7)その後,3号機等でHCU隔離時にノンリターン運転によるCR引き抜け事案(当該引き抜け事案)が発生。
****************************
田中三彦著「原発はなぜ危険か」などによると,制御棒駆動機構水戻りノズル部のひび割れは,浜岡1号機,島根1号機でも発生していました。同様な問題でひび割れが多発していた給水ノズル部については,被曝労働を伴う大がかりな改造工事が行われたが,制御棒駆動水戻りノズル部については,キャップをして原子炉戻りラインを使わないという措置がとられたようです。
撤去前までは原子炉戻りラインを開けておく「リターン運転」が原則であり,これが運転中も停止中も行われていました。しかしリターンラインの撤去により原子炉戻りラインを閉じるノンリターン運転が基本となりました。
東電の報告書によると,現在の手順書では,制御棒の隔離と復旧の際には,リターン運転にすることになっているとのことです。一体どのようにして撤去したはずのリターンラインを確保するのかは不明ですが,撤去した部分に配管をはめ,キャップとフランジのふたをはずすという,おそらくはめんどくさいことをやらなければならないのではないでしょうか。
福島第一3号機の事故当時の手順については不明とされています。当時は制御棒の隔離と復旧の際にもノンリターン運転とする手順になっていたのかもしれません。少なくとも事故時はノンリターン運転でした。 制御棒引き抜けや誤挿入が手順を何度徹底しても止まらない背景に,このノズル部のひび割れ問題があるのではないでしょうか。リターン運転にするためにおそらくは非常にめんどうな作業が強いられる,それだけではなく,リターン運転がひび割れを誘発するというジレンマがあるのではないでしょうか。ひび割れの原因は,温度変動に基づく熱疲労と推定されているので,冷温停止中であれば問題ないのかもしれません。しかし,停止直後などはこのラインを開けられない制約があるのではないでしょうか。
| 固定リンク
コメント