臨界事故と不正処分をめぐり保安院と市民が交渉
臨界事故と不正問題処分をめぐる市民と保安院との交渉が5月23日に行われました。市民側は,石川,福島,新潟,宮城,静岡,大阪,首都圏の各地から15名,保安院側は検査課2名,防災課1名,企画調整課1名の合計4名でした。経済産業省別館の会議室で予定を15分ほどオーバーして1時間45分のやりとりでした。
はじめに石川の方から,処分を見直し,設置許可の取消や運転停止の厳しい措置をとるよう求める市民30団体による要望書を提出,その後,事前に提出した質問書にしたがって回答と議論を行いました。 総じて明らかになったのは,保安院が臨界事故及び制御棒引き抜けについて,事の重大性についての認識が全く無く,調査もろくにせずにただただ電力の報告を鵜呑みにし,罰なしの処分で早急に事を収めようとする姿勢でした。
報告:福島老朽原発を考える会 S
■保安規定違反に運転停止処分を下さない理由はしどろもどろ
保安院は,一連の不正について保安規定違反を認めながらも,原子炉等規制法33条の設置許可の取消処分や運転停止処分を下していません。なぜかと聞くと,現時点の原子炉の安全性を損なうものではない,33条2項の趣旨や総点検のねらいから適当ではない,との回答でした。しかし法律のどこを見ても現時点の安全性が確認できれば運転停止処分を下さないとは書いてありません。それに「総点検のねらいから」というのはどういう意味でしょうか。正直に言ったのだから許してあげようとでもいうのでしょうか。それこそ,違反を罰して再発を防ごうとする33条の趣旨に反するのではないでしょうか。
それに,今回の措置は,2002年の原発不祥事の時に,1年間の運転停止処分を下した福島第一1号機の格納容器検査偽装に対する措置とあまりに異なります。このときは,その当時の原子炉の安全確認とは無関係に運転停止処分を下していました。この点を指摘すると保安院は,いやこの時は原子炉の安全性は確認されていなかったんだと反論,しかし,当時の文書から,処分が不正の重大さに鑑みて出されたものであり,当時の安全確認がなされたこととの関係が何も書かれていないこと,事の経緯からして,安全確認よりも処分を優先したことは明らかであることを指摘すると,「当時の文書には『安全性確認との関係』は書かれていないが」と認めた上で、それでも「安全性確認」を強調していました。
さらに,その論理でいけば,同様の格納容器検査偽装が今回明らかになった敦賀2号機について,現在の安全確認がなされていることになるが,それはいつやったのかと聞くと,特別な保安検査でと。ではそれはいつかと聞くと、検査課の高橋氏は手帳をくりながら「2月19日です」と答えました。ところが敦賀2号機の検査偽装が発覚したのは3月30日です。特別な保安検査は6月に行われる予定です。ありえない回答です。結局,「現在の安全性」を確認していないことを自ら語ったわけです。保安院が主張する「現在の安全性が確保されているから停止命令は出さない」が,いかにデタラメであるかがはっきりしました。
■リターンライン撤去については問題を承知していない
リターンラインさえ開く手順にしておけば引き抜けは起こらないと繰り返す保安院ですが,そのリターンラインが古い炉では,撤去されている問題があります。圧力容器に直結したリターンラインのノズル部でひび割れが多発したためで,東電によると福島第一1~5号機などでは,制御棒隔離の際,リターンラインを使うときには撤去した配管をわざわざつなぎ直して使っているとのことです。これについて,保安院が状況を把握しているのか,引き抜けが頻発していることとの関係はどうかと聞きました。
保安院は,把握はしていると言いながら,具体的にどの炉で撤去されているのかについて「島根1号とか敦賀1号とかいうのがある」というだけできちんと名前を挙げることができず,古い炉で,リターンラインが原子炉圧力容器に直結していることすら知らないというありさまでした。
■事故調査は電力の報告書を読んだだけ
福島第一3号機の臨界事故について,手がかりとされる元東芝社員が持っていた手書きのメモについて保安院でも検討したのかと聞きました。回答は正式にはその手の資料は請求していない(非公式には見た)というものでした。では何を検討したのか。はじめはこんなに分厚い資料をと手の平を広げて見せたのですが,よくよく聞くとそれは不正全体についてで,福島第一3号機については10ページほどだと。結局東電が公表している報告書のレベルでした。こんなに早く事故調査が終わりこんなに早く処分がでたカラクリはここにありました。電力の報告書を読んで終わりにしていたのです。それにしても,保安院の事故そのものに対する関心のなさには驚くばかりです。臨界事故の実態を把握しよう,明らかにしようという姿勢が全くないのです。
■制御棒引き抜けについての報告要請は「口頭」
保安院は,4月20日付調査報告書で,「BWRをもつ電力会社に制御棒の引き抜けについて報告するよう要請した」としていますが,日付も文書も明らかにされていません。そこで,これを明らかにするよう求めたのですが,回答は,「3月15日に口頭で行った」というものでした。制御棒引き抜けによる臨界事故をいかに軽く見ているかを示しているのではないでしょうか。本当に指示が出ていたのかも怪しいものです。(甘利が「私が指示をして不正を調べさせた」と豪語している昨年11月30日の不正調査指示も実際には保安院院長名で出たもので,甘利が…というのは後で作ったのではないかという疑義もあります)
■志賀の燃料棒調査は地震により中断
志賀の臨界事故について北陸電力の調査報告書に,当時の燃料の外観検査の写真は9体中3体しかありません。それはなぜかと聞いたら「地震により中断していると」の回答でした。そんなことは報告書のどこにも書いてありません。にもかかわらず、「燃料の健全性は確保されている」と結論づけてしまっているのです。
■設備上の対応についてはマイナスの効果を懸念
保安院は調査報告書で,手順さえ守れば制御棒引き抜けは起きないといいながら,一方で設備的な対応について期待されるとしており,構造上の問題を認めています。この辺について聞くと保安院は,東電などが行おうとしている設備上の対応(自動的に減圧して引き抜けを防ぐような改造)について「マイナスの効果がある可能性があり,やるべしとまで言えない」と批判的に述べていました。
■最後に
保安院が生き生きと回答していた質問があります。保安院が課題として挙げている「検査制度見直しの加速」が電力会社まかせであり危険ではないかという質問です。保安院は,平成20年度に導入をめざすとしている新しい検査制度について,喜々として語っていました。今回の事件で保安院サイドがねらっている「焼け太り」がここにあるのではないでしょうか。参加者はこのあたりについて監視の目を強めていこうと話しました。
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コメント
5月9日より順次放送予定
NHK・BSにてチェルノブイリ関連のドキュメンタリーを連夜放送決定。詳細はNHK・BS・ドキュメンタリーでぐぐってください。
再放送リクエストも受け付けてます。
投稿: Bochibochi | 2011年4月19日 (火) 07時50分
菅直人は浜岡原発を廃炉にするとはいっていないのです。ただ、一時期の停止をいったにすぎません。中部電力も、明確に「防潮堤が完成する2年後には運転を再開する。廃炉にするつもりはない」と明言しています。こんな中途半端な、その場しのぎの政策が、どうして「英断」なのでしょう。この「英断」によって各地の原発は存続が保障されたのであり、危険のままに放置されることが決まったのです。
愚かなマスメディア、無能な菅直人によって、各地に明日来るかもしれない大地震も、しばらくは来ないだろうと無為の闇に葬り去られてしまいました。
津波ばかりを喧伝し、ビルを転がしてしまう直下型大地震の怖さを忘れた、原子力村民のカルト教が布教され始めたのです。恐ろしい新たな原発安全神話の始まりです。
兵頭正俊
http://123mh.livedoor.biz/
投稿: このままでは日本が滅びる | 2011年5月22日 (日) 13時43分