2007年4月16日 (月)

原子炉戻りラインの撤去と制御棒駆動機構の構造的欠陥

Tepco13tekkyo 臨界事故や制御棒引抜けに際して,制御棒駆動機構の構造的欠陥を認めず,手順だけを問題にする保安院は,各原子炉に1本ある原子炉戻りラインにつながる弁を開ける手順を確認さえすればよしとする原子炉戻り弁万能論に立っています。 ところが実際には,この原子炉戻りラインそのものがずっと以前に部分撤去されており,それが今でも続いていることが東電の報告書より明らかになりました。撤去の原因はラインが原子炉圧力容器につながるノズル部におけるひび割れでした。撤去されたラインにすがる保安院の姿勢には疑問を抱かずにはいられません。それに手順をいくら改めても制御棒の引き抜け・誤挿入が止まるところを知らないことの背景にある問題かもしれません。いずれにせよ、臨界事故や制御棒引き抜けが単なる手順の問題でなく、構造的な問題であることを明らかにしているのではないでしょうか。(図は東電の報告書より)

原子炉戻りラインの撤去と制御棒駆動機構の構造的欠陥

 原子力安全・保安院は,臨界事故及び頻発する制御棒の引き抜けに際して,制御棒駆動機構に構造的欠陥があることを認めず,弁の操作手順の問題であるとしています。志賀1号機の臨界事故の発覚に際し保安院は,各地のBWRについて「原子炉停止時に制御棒駆動系について試験を行う際には,原子炉戻りラインの弁(制御棒引き抜きにつながる水圧の上昇を防ぐための弁)を開いておくこと…」(第3報)といった管理手順が定められていることを確認しただけあり,志賀1号機のように,停止して安全総点検を行わせる指示を出していません。保安院は,原子炉戻りラインの弁さえ開いておけばよいという原子炉戻り弁万能論を振りかざしています。

 ところが,東電の報告書によると,各原子炉に1本しかない原子炉戻りラインは,福島第一3号機の臨界事故当時には部分撤去されており,今でも撤去されたままとなっています。具体的には,配管を一部撤去したうえで,配管側のフランジにふたをして,ノズル側にはキャップをはめているとのことです。撤去の原因は,そこのラインが圧力容器に入るノズル部で,温度変動に基づく熱疲労によると思われるひび割れが多発したためでした。東電の報告書によると,福島第一1・2号機についても同様に撤去されています。

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制御棒駆動水戻しラインの運用経緯について 東京電力より

(1)GEの当初設計では,制御棒駆動水系(CRD系)の系統水が原子炉圧力容器へ直接戻るライン(リターンライン)があり、プラント運転中、停止中ともリターンラインから原子炉へ注水される系統構成(リターン運転)となっていた。

(2)プラント運開当初より運転中・停止中ともCRD系をリターン運転で運用していたところ,1F1号機第5回定期検査時(昭和52年2月27日)の浸透探傷検査において制御棒駆動水戻しノズルの内面に数箇所にひびが発見された。

(3)制御棒駆動水戻しノズルには25℃~40℃の冷たい復水貯蔵タンクの水が毎分40~80リットル流入している。一方、炉水は高温(約280℃)のため,ノズル出口部付近で大きな温度差が生じ,温度変動に基づく熱疲労が生じたものと推定。

(4)ひびの再発防止のために以ドの対策が講じられた。
a.ひびの生じた部分をグラインダーで削り,除去した。
b.系統水が戻しノズルへ流入しないようにするため,リターンラインの一部を撤去し,ノズル側にキャップを取り付け,配管側のフランジにはふたを取り付けた。

(5)3号機第1回定期検査時(昭和52年5月28日),及び2号機第2回定期検査時(昭和52年6月17日)においても、浸透探傷検査において制御棒駆動水戻しノズルの内面に数箇所にひびが発見されたため、1号機と同様の再発防止対策を講じた.。

(6)以上の対策により、プラント運転中、CRD系のリターンラインから原子炉に注水しない系統構成(ノンリターン運転)とする運用となった。HCU隔離・復旧時にはリターン運転とする運用となったかは不明。

(7)その後,3号機等でHCU隔離時にノンリターン運転によるCR引き抜け事案(当該引き抜け事案)が発生。
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 田中三彦著「原発はなぜ危険か」などによると,制御棒駆動機構水戻りノズル部のひび割れは,浜岡1号機,島根1号機でも発生していました。同様な問題でひび割れが多発していた給水ノズル部については,被曝労働を伴う大がかりな改造工事が行われたが,制御棒駆動水戻りノズル部については,キャップをして原子炉戻りラインを使わないという措置がとられたようです。

 撤去前までは原子炉戻りラインを開けておく「リターン運転」が原則であり,これが運転中も停止中も行われていました。しかしリターンラインの撤去により原子炉戻りラインを閉じるノンリターン運転が基本となりました。

 東電の報告書によると,現在の手順書では,制御棒の隔離と復旧の際には,リターン運転にすることになっているとのことです。一体どのようにして撤去したはずのリターンラインを確保するのかは不明ですが,撤去した部分に配管をはめ,キャップとフランジのふたをはずすという,おそらくはめんどくさいことをやらなければならないのではないでしょうか。

 福島第一3号機の事故当時の手順については不明とされています。当時は制御棒の隔離と復旧の際にもノンリターン運転とする手順になっていたのかもしれません。少なくとも事故時はノンリターン運転でした。  制御棒引き抜けや誤挿入が手順を何度徹底しても止まらない背景に,このノズル部のひび割れ問題があるのではないでしょうか。リターン運転にするためにおそらくは非常にめんどうな作業が強いられる,それだけではなく,リターン運転がひび割れを誘発するというジレンマがあるのではないでしょうか。ひび割れの原因は,温度変動に基づく熱疲労と推定されているので,冷温停止中であれば問題ないのかもしれません。しかし,停止直後などはこのラインを開けられない制約があるのではないでしょうか。

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2007年3月21日 (水)

中部電力でも制御棒引き抜き…浜岡原発運転差止裁判の法廷は騒然

静岡の塚本さんから

今日中部電力は「平成3年に浜岡3号機の制御棒3本の抜け落ち事故」を発表しました。

今日は、浜岡原発訴訟の証人尋問が静岡地裁で行われていました。被告中電が立てた証人3氏へのこちら側の反対尋問でした。

以下、裁判中に“隠蔽”を知った私たちの様子です。

午前の最初の証人、N中電社員に対する尋問を行っていた最中でした(この時点では“制御棒の事故隠蔽”については知りませんでした)。老朽化、SCCの問題や、過去に起こした事故について尋問を進めていました。この中で原告代理人が再三にわたって
「隠し」について質問していました。例えば

Q:(PDCAについて)情報が隠されていないことが大事ですね。
A:そうです。
Q:トラブルは隠そうと思えば簡単に隠せるものではないですか?
A:・・・そう簡単というものではありません・・
Q:柏崎刈羽1号機の残留熱除去系冷却系ポンプの故障を偽装していたことにたいする感想は?
A:偽装はよくないと思います。
Q:福島第2の1号機・柏崎刈羽1号機・女川1号機でスクラムを隠蔽していたことが最近明らかになりましたが、安全上問題ないのですか?
A:報告は必要だと思います。
Q:中電でも定期点検におけるごまかしは過去1回もなかったと断言できますか?
A:調査を進めているところです。
Q:志賀原発の制御棒抜け落ち事故についてどのような認識を持っていますか?
A:他社さんのことで・・・私は専門ではない、修理屋ですから。
Q:もう一度聞きます、浜岡原発ではスクラムしたのに報告していないとかトラブルの隠蔽は絶対ないと言い切れますか?
A:ないとは思っています。

およそ100分の尋問の最後に、被告代理人からの再主尋問が始まったときのことです。

Q:「平成4年以降、想定手引きが変わりましたね?」
A:そうです。
Q:「そのきっかけは何ですか?」
A:平成3年に3号機で複数制御棒の引き抜き事故があったからです。

私のみならず、一瞬耳を疑いました!
私だけ知らなかった“コト”なのか?!
次の瞬間、被告代理人が
「実は本日発表する予定になっておりますことで、平成3年に3号機で3本の制御棒が引き抜かれるという事故がおきておりました。臨界状態にもならず環境に影響もなかったので報告をしていなかったものです」
と、さらりと言ってのけたのです。
背筋に悪寒が走る思いでした!
原告団・弁護団とも騒然としました。
原告席からは「住民をバカにするな!」のやじ。
裁判官は“いたしかたない感情だろう”というような表情。

通常は、再主尋問で終わるのですが、こちらの代理人が怒りをこらえて「特別に再反対尋問をさせてください」と。
再反対尋問などめったにないことなのだそうですが、裁判長も「これほどの事情ですから」ということで異例の15分ほど時間を延長しての尋問が行われました。

この中でも、中澤証人は
・他電力へは情報を提供していた
・安全上問題ないと思っている
・再発防止はやっている
など、重大性の認識はまったくなく、隠蔽に対する謝罪もない。
それまでの尋問での回答は“偽証罪”とも言えるものになってしまった状況となりました。

とにかく今日はとんでもない一日となりました。
夕刊も一斉に記事に書きたてています。
夜には、朝日TVの報道ステーションの取材班が東京から新幹線で
駆けつけインタビューしていきました。

全国のBWRに関わるみなさま、今後の動きを連携させていきましょう。

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