【142】放医研の先行調査は検出限界が高く内部被ばくを無視してしまう
私たちフクロウの会は「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」「国際環境NGO FoE Japan」と協力して8月29日に福島県に対して県民健康管理調査についての要請行動を行いました。
その要請の中の重要なポイントが県の依頼で行った放医研の先行調査におけるホールボディカウンタと尿検査の検出限界の問題です。放医研の検出限界は高く設定されており、実際に内部被ばくしているにも関わらず「検出されず」ということで無視されてしまいます。
私たちの指摘を補強する資料としてチェルノブイリ事故後に行われたハンガリーのブタペストで実施されたホールボディカウンタでの調査結果を紹介します。
ブタペストにおけるWBC測定 ~食品安全委員会資料より~
「チェルノブイリ事故の後、被曝直後から4年半、ブタペストの成人市民にホールボディカウンタ(WBC)でセシウムを測定、約1年後に最大値に達し、3年後にはほぼ消失した。(近藤、1993年)」とキャプションがついたデータです。
ソース:http://www.nfri.affrc.go.jp/topics/pdf/sympo2.pdfのp21
《 I 》 チェルノブイリ事故後のセシウム‐137の体内摂取量の時間的変化
「近藤、1993年」とあるのは、近畿大学の近藤宗平氏のことで、「放射能はむしろ体にいい」ホルミシス派の巨頭で、「100mSvまでは何の影響もない」論の理論的指導者です。「人は放射線になぜ弱いか」第3版 (ブルーバックス)の著者で、それに対する賛同意見はAmazonのページでお読みください。また批判にはこのようなものがあります。
以下のグラフは、近藤宗平氏が原著(不明※)から引用したものの孫引きのようですが、
•「放射能騒ぎはすぐに消えてなくなる」
•「食生活に気をつければ内部被ばくは減らすことができるので心配ない」→「日本では暫定基準があるから心配ない」
といった主張のために利用されているようです。しかし、グラフからは以下のことが読み取れます。
•おそらく検出限界は10Bqぐらい
•男女が相似形。検出限界値を下げて測定するととても有効な統計が得られる。
•内部被ばくの推移が非常によくわかる。
•食物摂取による内部被ばくは、400日後がピークであることがわかる。
おそらく汚染度は、ブタペストより飯舘村や川俣町の方が高く、福島市内と同程度ではないかと思われます。もっと良く知りたいことは、
•ブタペストからチェルノブイリまでの距離は?
•ブタペストにおける空間線量率の遷移は?
•ブタペストにおける土壌汚染の程度は?
です
《 II 》 補助線を加えてみました
•左下矢印は、福島県先行調査の測定日(7月10日)が120日目であったことを示す。120日目ではようやく「山の中腹」である(400日後がピーク)。
•120日目では、福島県先行調査の最大値4,000Bqは、ブタペスト120日目の最大値約1,200Bqより3.5倍大きい。
•横に引いた補助線は、福島県先行調査の検出限界値570Bq/身体
《 III 》 過剰な「検出限界570Bq」の意味を表してみました。
•福島県先行調査の検出限界値570Bq以下をデータゼロ《ND》として、塗りつぶしてみる。
•せっかくの調査が、内部被ばくの推移が全く分からない、無意味なものとなってしまう。
•塗りつぶした図の結果が、放射線医学総合研究所が福島県から託されたホールボディカウンター(WBC)検査の実情です。ブタペストで行われた測定の精度には到底及びません。
•これは残念ながら、2011年日本の放射線防護の技術および熱意の水準が、1991年の社会主義国家ハンガリーのそれに比べて「さえ、いかに低いか」を、物語っています。
※ 原著である可能性のあるものは、
Feher, L: Experience in Hungary on the Radiological consequences of the Chernobyl accident. Environmental International, 14, 113-135(1988).
以上。
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コメント
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Chernobyl - Budapest は約910㎞ですね
http://www.trueknowledge.com/q/budapest_chernobyl_distance
福島から(あくまで)仮に910kmの同心円を描いたら、
日本列島はあらかた覆われてしまいますよね
投稿: hieronyma | 2011/09/08 00:20
放医研は、東大の下部組織です。つまり、原子力推進のための機関であることをお忘れなく。決して、正義に味方ではありせんから誤解なきように。
投稿: ねずみ | 2011/09/28 01:00