【記者会見】依然として高濃度汚染が続く渡利・大波
除染の限界は明らか - 国と福島県は避難と除染の政策をみなおすべき
11月15日、フクロウの会と国際環境NGO FoE Japanは共同で記者会見を行いました。
2012.11.19一部改訂しました。
以下に資料のテキストのみ貼り付けます。
1. 要旨
福島老朽原発を考える会(フクロウの会)、国際環境NGO FoE Japanは昨年6月以来、福島市内でも空間線量率が高い渡利、大波地域の放射能汚染状況を継続して監視している。
2012年10月14日に同地域の空間線量率測定と土壌分析を行った。昨年からの定期的な測定結果も踏まえて、現状分析と勧告を行う。
2. 結論
(1) 渡利・大波地区は依然として高線量率であり深刻な放射能汚染状況が継続している。
(2) 「除染」は計画どおり進んでいない。
(3) 「除染」の効果は極めて限定的である。
(4) 除染土仮置き場の管理状態は不十分、保管中や最終処分場への移動時に二次汚染を発生させる可能性がある。
(5) 国と福島県は「除染」効果の実態を検証し、避難・保養など被ばく防護策を再構築すべきである。
(6) きめ細かい定期的な測定・監視が必要である。
3. 今回の測定結果
3-1 依然として深刻な汚染が続く渡利地区
渡利地域は福島県庁や福島駅から2キロ程度の場所にある住宅街である。図1に周辺の位置関係を示す。この地域の小学校通学路、住宅街の中の用水路、お寺の階段下などで継続的に監視を行っている。
今回の測定でも、依然としてこの地区で高線量率の場所や高濃度の土壌汚染があることが発見された。渡利小学校通学路わきの側溝では1m高で0.7μSv/h、1cm高で1.3μSv/hであった。通学路の反対側、民家の雨水桝周辺で1.8μSv/h(1m高)、5.6μSv/h(1cm高)であった。
薬師町住宅街を通る用水路中央部では4.4μSv/h(1m)、水路西側で3.7μSv/h、水路東側で3.5μSv/hであった。水路西側の土壌分析ではセシウム合計で515,000Bq/Kgと極めて高い濃度を検出した。水路わきのU氏宅の庭では1.4μSv/h(1m高)、薬師町のT氏宅の庭では1.1μSv/h(1m高)であった。表1に、渡利地域の測定結果を示す。
これらの地域の土壌汚染や空間線量率のレベルはチェルノブイリ原発事故後のベラルーシの「特別規制ゾーン」に該当するレベルである。
また、3.11福島原発事故後に決められた焼却灰や汚染土などの埋め立て使用可能基準は8,000Bq/kg以下である。渡利地区の住民は「特別規制ゾーン」に住んでいることになり、日本の基準でも埋め立て基準をはるかに超える土壌汚染の地域に住み続けていることになる。
3-2 大波地区も深刻な汚染が継続している
大波地区は福島駅から10キロほどの距離であるが、里山に囲まれた畑や田んぼの中に住宅が点在する農村である。図―2に大波地区の位置を示す。
この大波地区に住むS氏の住宅と田んぼの測定を行った。
S氏は最近、旧宅の前に新宅を建てた。新宅の庭では0.7~0.8μSv/h(1m高)であった。S氏宅は2011年12月に除染を行った。その直後には庭で0.5~0.6μSv/h(1m)であったので、除染後、再び空間線量率が上昇している。旧宅の玄関の奥は山際近くであり1.0μSv/h(1m高)であった。表2にS氏宅の測定結果を示す。
S氏の新宅の1階茶の間で0.2μSv/h(1m高)、2階部屋で0.3μSv/h(同)、2階ベランダで0.4μSv/h(1m高)であった。屋根は1.6μSv/h(1cm高)であり、2階の部屋が高線量率であるのは、屋根からの影響を受けていると推定できる。屋根も2011年12月の除染時に高圧洗浄を行っているが、セメント瓦の細かい穴に入り込んだセシウムは取ることができない。
S氏の田んぼでは水たまりぎわで1.0μSv/h(1m高)であり、下の田んぼでは0.5μSv/h(1m高)であった。S氏の田は棚田になっており、山から引いた水を一番上の溜め池に溜め、それを下に流している。山全体を除染しない限り田んぼの線量率を下げることは困難である。田んぼの土は8,970Bq/kgであり、米の作付可能基準の5,000Bq/Kgをはるかに超えている。S氏は自宅の田んぼで獲れる米がうまいと自慢であったが、米作りはできないでいる。野菜も若夫婦や孫は食べないので作っていない。
3-3 雨によりセシウムを含んだ土砂が集中、堆積して高汚染状態が継続している。
我々は、2011年6月以降、渡利、大波地区の空間線量率、土壌汚染について継続的に調査している。その結果からは、雨により周辺の山等からセシウムを含んだ土砂が集中、堆積して高濃度汚染の状態が継続している状況が分かる。以下のそのような状況を示す。
(1)小倉寺稲荷山
市小倉寺稲荷山は阿武隈川沿いの住宅地である。測定点は小高い位置にある、福泉寺の入り口階段下の側溝付近である。
図3は同地点の空間線量率の推移である。2011年6月に1m高で2.2μSv/hであったものが、2011年9月には2.7μ/hまで上昇した。その後、2012年になっても1.6μ/Svから1.8μSv/hと高い水準で推移している。
図4は同地点から採取した土壌のセシウム濃度(Cs-134,137合計)である。2011年に比べ、2012年になり高いレベルが持続している傾向を示している。
空間線量率、土壌汚染状況からは、付近の小高い山から、雨による土砂の流入によりセシウムを含んだ土が堆積して高濃度が持続していることが推定できる。
(2) 渡利薬師町水路
渡利薬師町の水路は住宅地の間を流れる水路であり、普段は乾燥しているが、雨が降ると付近の弁天山からの雨水が大量に流れる場所である。水路の底は普段は乾いており、以前は子どもが小学校への近道として通っていたこともある(図5参照)。
図6はいずれも1m高での値である。水路は西側から東側に向かって水が流れる。水路中央部が一番高く、西側が続き、東側の順にレベルが低くなる。レベルは2.8~5.3μSv/hである。線量率は2011年9月に比べ上昇しそのレベルを維持している。
土壌の放射能汚染レベルを図7に示す。2011年9月14日採取時点では307,000Bq/kgであったものが、今回2012年10月14日採取のものでは515,000Bq/Kgであり、明らかに放射能汚染レベルは上昇している。
弁天山からのセシウムを含んだ土砂が雨のたびに流れ込み、堆積していることがうかがわれる。このことは、水路の除染を実施しても、弁天山全体の除染を行わない限り線量率低下は見込まれず、実際上、除染による線量率低下は不可能であることを示している。
3-4 除染は計画通り進んでいない、除染の効果は限定的
今回の測定およびヒアリングで、国や福島県、福島市が進めている除染は大幅に遅れており計画通り進んでいないこと、また、除染の効果は限定的であることが明らかとなった。
(1) 渡利地区では除染が大幅に遅れている
渡利地区では除染が大幅に遅れていることが明らかになった。渡利で除染が進んでいるのは一部の地区のみであり、今回ヒアリングした薬師町では、これから三者(福島市、除染業者、該当のお宅)打合せが行われて、そこで合意できれば除染が行われるということであった。最も問題であるのが、除染土置き場の問題である。渡利で除染が進んだ地区は実際には裏庭に穴を掘り、そこにコンテナ詰めした汚染土を埋め、上から土をかけブルーシートで覆うという状況である。図8,9にその状況を示す。
裏庭に埋めるとはいえ、盛り土は裏庭全体を占めており実質的には裏庭は使えない状況である。敷地内にこのようなスペースが無い場合は除染は不可能である。
(2) 除染をしても再び線量が上がる実態がある
大波地区は福島市内で最も早く除染が始まった。前述の大波地区のS氏宅は2011年12月に除染を行ない、0.5~0.6 μSv/hとなったが、10か月後の現時点では0.7~0.8μSv/hに上昇している(前述)。周辺の山や森全体を除染しなければ、再び雨などにより汚染した土砂が周辺に流れ込み線量が上がると推定される。
(3) 庭だけ除染しても周囲の影響を受け一定以下には下がらない
図10は薬師町水路そばにあるU氏宅の庭の柿の木の下の空間線量率である。U氏は庭の線量率が極めて高いことに気づき、神戸大山内教授による測定結果データ(グラフ中の2011年9月14日のもの)を持って、福島市に除染するよう要求したが、市側からは何の動きもなかった。やむを得ずU氏は自主的に除染作業を行った。この結果1cm高での線量率は20μSv/hから1.8μSv/hまで低下した。しかし2012年10月の測定では1cm、50cm、1m高で、共に1.4μSv/hである。これは1.4μSv/hがこの周辺のバックグラウンドであることを意味する。したがって、庭の除染ではこれ以上の線量率低下は不可能であり、周辺全体を除染する以外に線量率低下の方法はなく、それは非常に困難である。
(4) 除染土仮置き場の保管状態も問題がある - 大波農村広場
大波農村広場は2011年6月の測定では1m高で2.5μSv/hであった。今回、ここを訪れると、広場の周りに厚さ50cm程度のコンクリートの壁が築かれていた。裏手から回って広場の中へ入ると、そこは除染土の仮置き場となっていた(図11参照)。
広場の真ん中での空間線量率は1m高で1.0μSv/hであった。除染土は1トンコンテナバッグに入れられてコンクリート壁際から、うず高く積み上げれていた。コンテナバック表面では、5.1~12.0μSv/hであった。仮置き場として囲まれているため、一般人が不用意に入る危険性はない。しかしコンテナバッグは上面が開放状態にあるものも散見され、将来、最終処分場へ移動する際には、開放部からのこぼれ、バッグの老朽化による破損なども考えられる。バッグ上面を覆うこともなく野ざらし状態である。乾燥して土ぼこりとなって周辺への二次汚染の可能性もある。管理状態は悪い。
4. まとめ
今回の調査結果からは下記のことが言える。
(1) 渡利・大波地区は依然として高線量率であり深刻な放射能汚染状況が継続している。
3-1,3-2で示したように、渡利地区、大波地区は事故から1年8カ月経過した今でも深刻な汚染状況にある。渡利、大波地区はチェルノブイリ後のベラルーシやウクライナの「避難の権利ゾーン」乃至「特別規制ゾーン」」にあたる汚染状況である。大波地区は農村であるが耕作ができない状況である。
(2) 「除染」は計画どおり進んでいない。
政府、福島市は昨年10月の地域住民への説明会において、「先ず除染を」と強調した。それから1年以上経つが、特に、渡利地域では、未だ除染が行われていない地域がほとんどである。
薬師町内の水路で最高4.4μSv/h(1m高)、水路底の土壌の放射性セシウム濃度は515,000ベクレル/kgである。T氏宅の庭の土壌は115,000Bq/kgである。このような高汚染状況の中で、住民は除染の順番待をしている状況である。
(3) 「除染」の効果は極めて限定的である。
放射性物質汚染対処特措法で国が定めた「汚染状況重点調査地域」の基準は0.23μSv/hである。過去の渡利地区の除染モデル事業でも、今回測定した大波のS氏宅でも、「除染」実施後この基準をクリアしていない。
「除染」を先行した大波地域では「除染」直後に比べ、再び空間線量率が上昇している例もある。広大な山や森林を全面的に除染しないかぎり効果は得られない。
渡利地区もすぐそばに弁天山を抱えており、そこからの流入、堆積による高濃度汚染の状況を考慮すれば、除染を行ってもすぐに、再び線量率が上がることは必至である。
(4) 除染土仮置き場の管理状態は不十分、保管中や最終処分場への移動時に二次汚染を発生させる可能性がある。
大波地区の除染土仮置き場では、コンクリート壁の内側に大量のコンテナバッグに詰められた除染土が山積みになっていた。コンテナバッグ上部は開放状態であり、土ぼこりによる飛散など二次汚染の可能性がある。早急に改善すべきである。
(5) 国と福島県は「除染」効果の実態を検証し、避難・保養など被ばく防護策を再構築すべきである。
上記を総合すると、国、福島県、福島市が進めるとしてきた「除染」は効果が出ていない。早急に「除染」実態を検証し、学校単位での子どもの避難、保養など、被ばく防護策を再構築すべきである。
(6) きめ細かい定期的な測定・監視が必要である。
渡利、大波では、いたるところに高線量率の地点、高濃度汚染土壌が存在することが明らかとなった。福島県内や周辺地域も含め、住民生活に即してきめ細かく空間線量率測定、土壌分析を行うべきである。また、定期的に継続して監視しデータを市民に公開すべきである。
以上
[参考]今回の測定に使用した機器
(1)NaIシンチレーションサーベイメーター
日立アロカ製 TCS171B
(2)NaIスクリーニングシステム
ベラルーシ ATOMTEX社製 AT1320A
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