【記者会見報告】原子力規制を監視する市民の会・新安全基準プロジェクトによる記者会見
2月1日午後、衆議院議員会館において、原子力規制を監視する市民の会新安全基
準監視プロジェクトにより、原子力規制委員会の新安全基準検討チームによる骨
子案と検討のあり方について批判する記者会見が行われました。
まず、監視する市民の会として阪上から、当日発出した声明に即し、検討が余り
に拙速であること、原子力関係者だけで検討しており、批判的な専門家が排除さ
れ、住民や被災者の意見を聞く場もないこと、一方で電力からのヒアリングは実
施し、便宜を図っていること、内容的にも、格納容器の設計上の欠陥について検
討がないこと、時間のかかる恒久施設は後回しで、すぐにできる可搬施設で再稼
働を許すものになっていること、それが役に立たないことは電力自身が吐露して
いること、放射能放出が避けられない「ベント」を対策の要に使おうとしている
こと、特定安全施設はテロ対策とし、肝心の地震や津波に対応することを求めて
いないことなど、総じて、再稼働については、大飯原発の再稼働時と同様に、付
け焼き刃的な対応でよしとしている点に問題があるとの指摘がありました。
続いて元ストレステスト意見聴取会委員で東大名誉教授の井野博満さんから、可
搬施設による対応の批判、そして、外部電源の信頼性を高めるために、送電設備
についても耐震性を上げるべきであるとの指摘がなされました。
元東芝の原子力技術者でやはりストレステスト意見聴取会委員であった後藤政志
さんからは、格納容器の構造上の欠陥が事故を引き起こした可能性があるのに、
これに手をつけないことは問題であること、航空機衝突などで、確率論で逃げる
ようなやり方は許されないとの指摘がありました。
青木弁護士からは、立地審査指針の見直しの必要性、単一故障の前提では不十分
であり、共通要因故障を前提とした設計にすべきだとの指摘がありました。
原子力規制委員会の検討チームの外部有識者に利益相反が問題となる学者が含ま
れており、実際に電力会社に有利な発言をしている点について、杉原さんから指
摘がありました。
会見場には報道関係、また監視する市民の会新安全基準監視プロジェクトの専門
アドバイザーを含め30名ほどが詰めかけました。
最後に、来週以降予定されているパブリックコメントについて、各所から批判的
な意見を集中し、拙速な検討にストップをかけようという呼びかけがなされまし
た。
以下に、監視する市民の会による声明を付けます。
阪上 武
*******************************
2013年2月1日
原発「新安全基準」の検討について[声明]
原子力規制を監視する市民の会
原子力規制委員会は、「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」
等において、原発「新安全基準」の策定作業を急いでおり、昨日には骨子案を固
めた。来週にも2週間という非常に短い期限のパブリックコメント実施が予定され
ている。
「新安全基準」は、原発再稼働の前提となるものであり、住民や一般市民の命
や生活に関わる非常に重要なものだ。しかし、利益相反が問題となっている学者
や原子力関係者の非常に限られた数人の間だけで検討され、しかも議論が煮えき
らないうちに議事を次々と進め、結論を急いでいる。「本来5年はかかる」(更田
委員)ものをほんの数ヶ月の検討で骨子案をまとめるという強行スケジュールだ。
骨子を急ぐのは、電力会社が改造工事にとりかかれるようにする措置ともいわれ
る。現に東電などは、柏崎刈羽原発において、フィルタ付ベントの工事を進めて
いる。
検討の過程で批判的な専門家は排除されており、住民や福島原発の被災者から
のヒアリングもない。その一方で、電力会社からのヒアリングだけは実施し、実
質的な事前審査の場となった。問題が配られる前に、答え合わせするというサー
ビスぶりだ。このような検討のやり方は直ちに改めるべきだ。また、私たちが住
民への説明会を求めると、原子力規制庁から、議員には説明するが市民に説明す
るつもりはない旨の回答があった。許されざる姿勢だ。原子力規制委員会・規制
庁は説明責任すら果たしていない。
骨子案の中身についても問題だらけだ、福島原発事故の検証が不十分な状況で、
設計には手をつけず、シビアアクシデントに対しては、移動式(可搬式)の施設
による対応で再稼働を許すなど、大飯原発の再稼働のときと同様に、時間のかか
る方策を後回しとし、電力会社に都合がいいものとなっている。
福島原発事故における格納容器の破損状況が不明な状況で、特に沸騰水型原子
炉の格納容器について、容量、強度が小さい、圧力抑制プールの容量が小さいな
ど、事故以前から指摘されていた設計上の構造的欠陥について、検討の対象にす
らしていない。
特定安全施設については、航空機テロ対策とされ、肝心の地震・津波への対応
は、目的から外された。事故時にすぐに必要な高圧注水系はなし、耐震も本体並
みということになってしまった。原子炉本体から100メートル以上離すことにより、
配管が長くなり、地震・津波時には全く使えないおそれもある。しかもこの施設
の設置は後々でよいという。福島原発事故の教訓はどこへいったのか。
地震・津波は原則可搬施設で対応するというが、可搬式の冷却装置などは接続
に10時間もかかり、役に立たないことは、ヒアリングの際に電力会社自身が吐露
している。委員からも何度も指摘があったが無視されている。
フィルタ付ベントについて、電力会社はベントの効果を強調する。ベントは圧
力、熱、水素を逃がす上で都合のいい装置かもしれない。しかし、本来穴があっ
てはならない格納容器にわざわざ穴を開けるもので、フィルターをつけたところ
で、放射能の大量は避けられないものだ。設置したとしても、これに期待するよ
うな対策であってはならない。
新安全基準については、以下に具体的に挙げるように、その検討のあり方につ
いても中身についても問題があり、検討を一からやり直すべきである。
1.検討の進め方があまりに拙速である。一旦検討を止め、検討状況や論点につ
いて説明の場をもち、時間をかけて広く専門家および国民の意見を聞く機会を設
けて検討すべきである。
2.利益相反が問題となっている専門家を外部有識者から解任すべきである。検
討チームのほぼ全員を原子力関係者と利益相反が問題となる専門家で占めている
という状況は問題があることから、構成メンバーを見直すべきである。
3.新安全基準の検討の前提となる福島原発事故の検証が不十分であることから、
基準の策定よりも、地震による影響、溶融燃料の状況、格納容器破損の状況など
を把握し、事故の全容を解明することを優先すべきである。
4.格納容器の大きさや強度、圧力抑制プールの容量などについて、設計変更の
必要性についても検討すべきである。
5.従来の設計事象だけでなく、シビアアクシデントについても、設計事象に含
め、設計基準として対処してすべきである。
6.可搬施設は、接続に時間がかかる、地盤の変形により移動ができなくなる可
能性がある、地震や高線量下で作業が困難となる可能性がある等の問題があるこ
とから、代替設備については恒久施設を必須とし、更に信頼性を向上させるため
に可搬施設を要求すべきである。
7.フィルタ付ベントについて、これの使用は放射能の大量放出を伴うことから、
これを使わないことを前提に事故対応をさせるべきである。
8.特定安全施設については、地震・津波への対応について検討し直すべきであ
る。耐震性が本体施設と同等では意味がない。
9.福島原発事故レベルの事故だけではなく、それを超える事故についても想定
すべきである。シビアアクシデントの六大事故について、全電源喪失下での冷却
剤喪失事故など、同時に複数の事故が進行する可能性についても考慮すべきであ
る。
10.火災対策について、可燃性ケーブルの使用状況を確認し、使用の疑いがあれ
ば直ちに運転を止めさせるべきである。
11.多重性について、平成2年以前の炉に対して多重性の不備を容認する例外規
定を外し、稼働中の大飯3・4号機については、直ちに対処させるべきである。
12.外部電源の信頼性確保のため、変電所や送電線設備の耐震クラスをクラス1に
引き上げ、変電所の耐震性や送電線鉄塔の地盤変形による倒壊の可能性について
も確認すべきである。
13.現行の指針の原則となっている単一故障の想定では不十分である。共通要因
故障の想定を原則に対策をとらせるべきである。
14.立地審査指針について、具体化した上で法制化を検討すべきである。集団被
ばく線量を放出放射能の総量で置き換えるようなことはやめるべきである。
連絡先 090-8116-7155 阪上(原子力規制を監視する市民の会)
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