能登半島地震と原子力防災 省庁の回答の整理
みなさまへ 阪上です。長文ご容赦ください
原発を止めよとの要請書に全国から賛同いただきありがとうございました。また1月31日の要請行動にご参加いただきありがとうございました。31日は、能登半島地震を踏まえて原子力防災について、規制庁及び内閣府と交渉を行い、いくつか驚くべき回答がありました。その一つが「能登半島地震を踏まえて原災指針を見直しはしない」という規制庁の回答なのですが、この件で、今日の東京新聞のこちら特報部が報じていました。この件を含めて以下の3件について、指針や規制委の議事録なども確認して整理してみました。
1.規制庁「能登半島地震を踏まえて原災指針を見直しはしない」
2.規制庁「避難するとき被ばくの可能性はある」「被ばくゼロは安全神話」
3.内閣府「複合災害を想定して緊急時対応を取りまとめている」
前提として
原子力規制委員会が原子力災害対策指針(指針)を策定、指針に基づいて地方自治体が避難計画を策定、内閣府原子力防災担当がこれを支援しながら地域ごとに「緊急時対応」という文書をつくり、これを首相が議長の原子力防災会議で承認することになっている。
現行の指針は、PAZ(5km圏)は放射能放出前に避難、UPZ(5~30km圏)は屋内退避が原則。UPZでもモニタリングの数値が毎時20μSvを超えると一時移転、毎時500μSvを超えると即時避難となる。安定ヨウ素剤はPAZでは事前配布だがUPZについては避難途中か避難先で受け取ることになっている。
北野さんの話などから、能登半島地震による避難は困難を極めた。陸路がふさがれ、港が干上がり海路が使えず、ヘリが下りる場所がなく空路も使えなかった。孤立集落の住人は4市町で最大3,345人を数え、志賀原発の30キロ圏に限っても約400人が8日間孤立状態となった。珠洲市では指定避難所16施設のうち11施設で定員を超え、4施設では2倍近い人が押し寄せた。ビニールハウスや車中泊の人もいたが、自主避難所には支援物資が届かなかった。感染症が広がったが医療が受けられず、避難所で亡くなる方も。
原発事故が重なっていたら。避難ができない、屋内退避もままならない、安定ヨウ素剤も受け取れない、モニタリングポストが壊れて放射能の把握すらできない。現行の指針では複合災害に対応できない。
今回の地震は、指針が絵にかいた餅であり、指針に基づく避難計画が機能しないことをみせつけた。原発を止めるしかない。
1.規制庁「能登半島地震を踏まえて原災指針を見直しはしない」
規制庁の回答は以下の流れでした
(1)複合災害では自然災害への対応を優先するのが基本という考え方がある
(2)能登半島地震から自然災害への備えが重要である
(3)原子力災害対策指針の放射線防護の基本的な考え方は変える必要はないというのが委員の共通認識だった
(4)原子力規制庁としても原子力災害対策指針の見直しはしない
(5)屋内退避について意見があったので能登半島地震とは別に検討を行う
疑問1 原子力災害対策指針の放射線防護の基本的な考え方に「自然災害への対応を優先する」との記載はあるのか?→そのような記載は見当たらない???
原子力災害対策指針
(4)放射線被ばくの防護措置の基本的考え方
原子力災害が発生した場合には、前記(3)で述べた原子力災害の特殊性を踏まえた上で、住民等に対する放射線被ばくの防護措置を講ずることが最も重要である。基本的考え方としては、国際放射線防護委員会等の勧告、特にPublication109、111やIAEAのGSR
Part7等の原則にのっとり、住民等の被ばく線量を合理的に達成できる限り低くすると同時に、被ばくを直接の要因としない健康等への影響も抑えることが必要である。
https://www.nra.go.jp/data/000459614.pdf
疑問2 1月17日の規制委において、原子力災害対策指針の放射線防護の基本的な考え方は変える必要はないとの共通認識は本当に示されたのか?
〇山中委員長(問題提起) 能登半島の地震の状況下での屋内退避の問題、あるいは先日の女川原子力発電所の地元の自治体の方々から御意見等がございました屋内退避の期間等について、原子力規制委員会として検討すべきところがあるのではないかと私自身も考えておりますので、是非とも本日は少し皆様と議論をさせていただいて、スタートしてみたい
※能登半島の地震の状況下での屋内退避の問題と女川原発の地元自治体から出た屋内退避の期間等について検討すべきか?という問題の立て方
○杉山委員 先週の土曜日、私も山中委員長と共に女川の地元の自治体の方々との意見交換会に出席させていただきまして、その際に、今回の能登半島地震を踏まえて、屋内退避というものがそもそも成立するのかということ、それと孤立地域に対してどうやって対応するかというようなことの問題を提起されました。
※女川原発の地元自治体から出た意見もは、能登半島地震を踏まえて屋内退避は成立するのか?というものだった。
○杉山委員 まずは自然災害に対する備えがある程度ないと、これを個人住宅に求めることは無理だとしても、地域の避難所のようなものが耐震性を備えたものがまずあってほしい
その上で、屋内退避という手段も、これも何度も言われていることではありますけれども、いつまでもその状態を続けられるものではないということで、何らかの判断の下で解除する
※まずは自然災害。地域の避難所に耐震性をもたせないといけない。放射線防護は??屋内退避はいつ解除するかだけが問題。山中委員長のまとめに即した意見。
○伴委員 家屋が倒壊してしまって、そういう人たちを収容する場所がないとしたら、そのこと自体がまず問題なので、そこをそれぞれの地域の実情に応じて手当てしていただく。その上で、プラスアルファとして必要に応じてそういった施設に放射線防護対策を施していくというのが、これまでもそういう考え方だったと思いますし、そこは変更はない
一方で、屋内退避という防護手段を最も有効な形で使うために今の指針で十分なのかというと、そこはやはり議論の余地がある…屋内退避をお願いするタイミング、どの範囲に対してそれをお願いするのかというのは、どうするのが一番いいのかというのは改めて議論する必要があるのかなと。
プラントの状態を見て、今この範囲に対して屋内退避を要請すべきではないかということになってくるとすると、この議論はEAL(緊急時活動レベル)にも跳ねてくる可能性があるのです。だから、そう簡単に、それこそ数か月で結論を出すということにはならないかもしれない
※家屋倒壊に対する手当が優先、そのうえで必要に応じて施設の放射線防護対策という考え方でよい、一方で屋内退避について今の指針で十分かというとそうではない。これも山中氏のまとめに近いが、屋内退避の検討はそう簡単ではないとも。
〇田中委員 複合災害のときにどう考えればいいのかというのは大きな問題でもあるし、逆に言うと、複合災害のときにどこにどう避難するかということとも関連して、国全体として考えていかなければいけないのかなと思います。
〇石渡委員 今回の能登の被害を見ていると、とにかく自然災害が起きた場合の避難ということがまず大前提になっていて、その上で原子力災害が発生した場合にということを考えるべきなのだと思うのです。そういう意味で、今までの原災指針(原子力災害対策指針)は、そういう方面の考えが少し足りなかったのではないかなという感じはいたします。
※自然災害の避難が前提でよいが、そういう意味で、原災指針は考えが足りない。
〇山中委員長(まとめ) 皆さんの御意見を伺いますと、私もそのように考えるのですけれども、今回の能登半島の地域の状況から、原子力災害と自然災害の複合災害があった場合の屋内退避の防護の基本的な考え方に、特にこれまでと何か大きく変更する必要がないという皆さんの御認識だったと理解をしておりますし、私も同じように考えております。
ただ、今回の地震とは直接関係しませんけれども、伴委員からも御意見いただきましたし、杉山委員からも御意見いただきましたけれども、一律に屋内退避が開始されること、あるいは屋内退避をいつまで続ける必要があるのかということについては、これから屋内退避のタイミングあるいは期間に対する考え方など、再検討をした方がいいというところもあるかと委員の方の御意見を聞いていると思いました。
○片山長官
長官の片山でございます。承知をいたしました。論点はいろいろあろうかと思いますので、少し整理にお時間を頂いて、事務方で整理した上で原子力規制委員会にお諮りして、御議論を頂ければと思っております。
※「複合災害があった場合の屋内退避の防護の基本的な考え方は大きく変更する必要がないという皆さんの御認識」と強引なまとめ。屋体退避は今回の地震とは直接関係しないものとしてタイミングや期間だけ再検討。「能登半島地震を踏まえた指針の見直しはしない」とはっきりとは言っていないが、記者会見の場で、聞かれてはじめてそのように答えている。GXの運転期間延長と同様、だまし討ちのやり方。どうしても能登半島地震を踏まえたくない、踏まえて見直したら原発を止めざるをえなくなるからであろう。
疑問3 なぜ「原子力災害対策指針の放射線防護の基本的な考え方」だけを問題にするのか?指針そのものについての委員の認識を問題にしないのか?→指針そのものについて議論をはじめると、指針の不備が明確になり、能登半島地震を踏まえた見直しが必至の流れになってしまう。それを避けたかったのではないか。
2.規制庁「避難するとき被ばくの可能性はある」「被ばくゼロは安全神話」
自然災害を優先すれば放射線防護はどうなるのか。交渉の場で「放射線防護を放棄するつもりか」と追及を受けた規制庁は、「原発事故で被ばくは避けられない」「被ばくゼロは安全神話でありそのような考え方はしない」と開き直った。
芦原さんからの指摘…現状の指針は、原発事故だけでも被ばくは避けられない。UPZは屋内退避であり、毎時500μSvという非常に高い線量で即時避難となるが、いずれも被ばくが強いられる。
島田さんからの指摘…PAZは放射能放出前の「事前避難」とされているが、全面緊急事態の判断基準には「毎時5μSv以上の放射線が10分間継続」して観察される条件も入っており、避難時にはやはり被ばくが強いられる可能性がある。
大石さんからの指摘…複合災害時には、特にPAZにおいて事前避難ができない場合、急性障害が問題になる高いレベルの被ばくが強いられる恐れがある。想定される被ばく線量を公表すべき
※規制委の開き直りを許してはならない。言質をとって、規制委の姿勢を各地で問題に。
3.内閣府「複合災害を想定して緊急時対応を取りまとめている」
内閣府は、地域ごとに作成する「緊急時対応」において、既に複合災害に対応していると回答。しかしその内容は、近くの指定避難所に避難、それが困難な場合は広域避難、複数の避難経路を確保、道路啓開(けいかい)に着手しつつ海路避難や空路避難を行う、必要に応じて屋内退避、といったもので、いずれも今回の地震で実際にはできないことがわかったことばかり。
中垣さんからの指摘、PAZの線量が高い地域が被災したり孤立集落となったりした場合、救援活動をどうするのかという問題もある。
内閣府の「自然災害及び原子力災害の複合災害にかかる対応について」という文書
https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/keikaku/pdf/03_fukugousaigai.pdf
には、自然災害への対応を先行するとあり、PAZにも消防などの「実働組織」を送る手はずになっている。福島第一原発事故のとき、原発周辺で避難指示が出たのは地震から約15時間後だった。そのような時間で救援、道路啓開、避難まで完了することはとうていできない。請戸の浜の悲劇が繰り返されることになる。
交渉の場で内閣府は、地震の教訓を志賀地域の今後の緊急時対応の策定に反映させるつもりであることを強調。志賀地域に矮小化したい。しかしこれは全国で問題になること。内閣府は既にある緊急時対応についても検証し直さなければならない。
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