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2024/12/31

【大崎市放射能ごみ焼却住民訴訟】仙台高裁で不当判決ー放射能汚染基準の80倍緩和の恒久化先取り

12月25日、仙台高裁において大崎市放射能汚染廃棄物一斉焼却住民訴訟の判決言い渡しがありました。

 

結論から言えば、単に地裁の不当判決を踏襲、住民の訴えを棄却しただけでなく、地裁判決を補足強化し、あからさまに現状追認、原発推進、ひいては現体制擁護の判決だということです。本判決は放射能汚染廃棄物のクリアランスレベル(汚染物として取り扱わなくてよい基準)100Bq/kgを80倍にも緩め、8000Bq/kg以下であれば実質的に一般廃棄物と同様な取り扱いで良いとする汚染対処特措法を恒久化させるという意味を持ちます。8000Bq/kg以下であれば放射性廃棄物がいくらあろうと、それに取り囲まれた生活・被ばくは忍従せよという原発推進派にとって極めて都合の良い宣言文のような判決です。「被ばくはできるだけ少なく」から「ある程度の被ばくは我慢しろ」という大転換の先取り判決と言えます。

 

高裁判決はこちらからDLできます
地裁判決はこちらからDLできます

 

以下、その要点を紹介します。

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(1)焼却ありき、放射能ごみ処分のためには低線量被ばくは受忍すべきという、恐ろしい被ばく認識

 高裁判決の原発推進、現体制擁護の偏った姿勢は、争点の一つであった人格権侵害(放射能ごみ焼却により、被ばくの健康生命に対する危険性に不安を抱え続けてしなければならないこと)についての判決文に端的に表れています。

 判決文は「特措法(汚染対処特措法(筆者注)により基準を大幅に緩和し、8000Bq /kg以下の汚染廃棄物を一般の廃棄物と同様に焼却することを可能とした取り扱いに対し、原発事故の被害者というべき住民が不安を覚えることは当然」「本試験焼却により、・・セシウム137が相当程度排出される可能性は否定できず、これが拡散することによって周辺地域の住民に健康被害をもたらす抽象的な危険(太字は筆者、以下同じ)があることまでは否定し難い」などと一見、住民に寄り添ったかのような表現をしています。

 しかし、その直後にあいまいな根拠(後述)で「現実に排出される放射性物質は、年1mSv以下という基準を下回ることが予見されており」「実際にも本件試験焼却前後の空間線量にも有意な差は見受けられなかったことからすれば、本試験焼却は、周辺住民に健康被害が発生する具体的な危険性を生じさせるものではなかった」と主張しています。いうまでもなく、低線量被ばくの危険性、特に内部被ばくの危険性はがんや白血病の発生率の上昇、乳幼児複雑心奇形の増加、乳児死亡率の上昇、循環器系疾患の増加、免疫低下による各種疾患の増加、体内の活性酸素増加による老化現象の促進などが報告されています。1年間の試験焼却での空間線量の評価だけで「具体的な危険性がない」というのは、放射線による急性障害が出ない限りは問題ないということと実質同じ意味になり、あまりにも乱暴な結論です。

 その上で、判決文は、「控訴人らが主張する本件試験焼却による健康被害については・・様々な事情を比較衡量したとき、社会生活上受忍すべき限度を超えると言える具体的な危険性があるものであったとは言えない」として、平穏生活権を侵害していないと結論しています。極論すれば放射線被ばくによる急性障害が出ない限りは、被ばくは「受忍すべき」ということになります。

 

(2)汚染対処特措法により汚染廃棄物基準を従来の80倍に緩めた点を強調、一方で政府の同法施行3年後の見直しの不履行は不問に

 高裁判決では、「認定事実」において汚染対処特措法が制定された経緯や、8000Bq/kg以下の汚染廃棄物は一般廃棄物と同様の扱いにしたことの仔細を「補正」として一審判決の該当記述を全面的に差し換えました。一方で、この汚染対処特措法の附則で、政府は施行後三年を経過した場合に検討を加え「所要の措置を講ずる」、「放射性物質により汚染された廃棄物、土壌等に関する規制の在り方その他の放射性物質に関する法制度の在り方について抜本的な見直しを含め検討を行い」「法制の整備その他の所要の措置を講ずる」とされているにもかかわらず、政府は何もやっていないことについての言及はありません。現状追認、行政擁護、政府与党をはじめとする原発推進派の意向を先取り、法の番人としての司法の役割を投げ捨てたものとしか言いようがありません。

 

(3)汚染廃棄物処理が進まない実態を仔細に説明、一般ごみとの「混焼」処理を強調、反対する原告らを言外に「非国民」扱い

 高裁判決は「事実認定」において、(2)で述べた他、更に全面差し替え箇所があります。そこでは「汚染対処特措法および同施行規則に基づき8000Bq/kg以下の廃棄物については通常の処置方法でも、周辺住民、作業員ともに、その被ばく線量が・・年間1mSvを下回るものとして、市町村で安全に処理できるものという扱いになった」と強調しています。それにも関わらず、処理が進まない実態のなかで、宮城県が環境省の協力で一般ごみとの「混焼」による処理を決めた経緯を説明、それに全ての地方公共団体が同意したと説明しています。

 一般ごみと「混焼」したからと言って、放射能は分解されず、飛灰には濃縮されて高濃度になり、バグフィルタからの微小なセシウム粉じん漏れや焼却灰の管理型処分場(一般ごみと同じ)への持ち込みに、住民が安全性への懸念を持つことは当然です。わざわざこうした経緯を仔細に差し替え説明することで、それに危惧を持ち裁判で争う住民は社会性のない、自己主張をする特殊な人間であるかのような印象を持たせます。

 

(4)根拠薄弱な安全性の主張、原告らのリネン吸着法や尿検査結果について無視

 高裁判決は放射能ごみ焼却の安全性の部分でも「従来の基準とされていた100Bq/kgを大幅に変更したものであるから、・・控訴人らが、新たな不安を覚えることは当然」などと、一見、原告らに寄り添った表現をしている部分があります。しかしこれはリップサービスとも言えるもので、これに惑わされてはなりません。判決は原告らが提出した、リネン吸着法による3焼却炉(玉造、中央、東部各クリーンセンター:以下CC)周辺の秋・冬・夏の風向きによるセシウム微小粉じん漏れを示すデータ、玉造CC風下住民の尿検査による内部被ばくデータ、玉造CC稼働中の公定法(環境省が定めた排ガス測定法)の時間延長によるセシウム粉じん漏れデータ、玉造CCの老朽化による稼働停止後の、リネン吸着法結果の大幅低下、同住民の尿検査による内部被ばく状態の低下データ等を全て「焼却により不溶性の放射性物質が飛散していることや、飛散した放射性物質が人体に影響を及ぼす程度の濃度で飛散していることを適格に示す証拠はない」として一蹴しています。

 一方で、判決が焼却の安全性の根拠としているのは、①環境省や国立環境研による福島県内外の焼却炉によるセシウム除去率調査や、②福島県の仮設焼却炉2箇所で調査した結果をまとめた国立環境研のいわゆる「大迫論文」に過ぎなせん。①はバグフィルタがセシウムを99.9%捕捉するということを客観的に裏付けるデータ等の添付、引用はありません。②は福島県内の仮設焼却炉2箇所(具体的施設不明)での電子式インパクタによる分析結果ですが、バグフィルタは、数百本もの沪布ユニットで構成されるそれ自体複雑なプラントともいえるものですから、設備の設計、建設時の施工状態、保守状態、老朽化等により、その設備能力は大きく異なることは自明であり、仮に②の大迫論文結果(その論文自体の問題点はここでは割愛する)が正しいとしても、それが、全てのバグフィルタの能力を保証するものでないことは自明です。実際に原告らが実施した玉造CCでの稼働中の公定法(時間延長による検出下限を大幅に低下させた)では、大迫論文の3倍(3号炉)から13倍(4号炉)の粉じん漏れを検出しました。

 判決文が「本試験焼却は・・混焼による処理の安全性を確認するために実施したものである」(判決文10p 「5 本件指定基準及び本件試験焼却の安全性について」)というのであれば尚更、原告らが提出した数々の、調査結果について、真摯に検討すべきであることは明らかです。しかし、見米正裁判長らは、原告らが要求した証人尋問を頑なに拒み、一方で「適格に示す証拠はない」と結論していることは、最初から政府環境省方針や被告らを擁護する偏った姿勢であったことを明らかにしています。

 特に30年という長い半減期を持つセシウム137が問題になっているのですから約1年間の試験焼却中と直後のデータだけでは決定的に不足です。それで良しとするのは、それこそ「希釈して薄めれば良い」という原発推進派の考え方そのものです。長半減期の核種は地球環境と人間を含む全ての動植物に蓄積し濃縮します。高裁裁判官の誰一人として、この程度のことに気付かず2020年から2年間の本焼却を経て、玉造CCが稼働停止になった後の変化まで調査した、原告の証拠資料に目を向けようともしない姿勢は批判されるべきものです。

※原告が裁判所に提出したバグフィルタ漏れ、周辺住民の尿検査結果等の一連の調査結果を報告集会でプレゼンしました。資料はこちらからDLできます。

 

(5)覚書・申し合わせについての形式的判断は基本的に変わらず

 高裁判決は、地元住民組織と被告らが交わした覚書、申し合わせ違反について、詭弁とも言える地裁判決の決定を基本的に引き継ぎました。これは既に地裁判決で批判していますので、そちらをご覧ください。

このような不当な判決に、控訴人団・弁護団は速やかに上告の意思を表明した声明を出しました。

 

汚染水の海洋放出、汚染土の再利用、放射能ごみ焼却、汚染木を燃料とするバイオマス発電を止めるために、放射能バラマキを止めるために、引き続き、大崎放射能ごみ焼却住民訴訟に注目し、支援していきましょう。

 

2024.12.31 
青木一政

 

2024/12/20

【論文】「南相馬住民の尿検査による内部被曝調査と土壌粉塵吸入による影響」が環境放射能研究会Proceedingsに掲載されました

12月19日、第25回環境放射能研究会の論文集Proceedingsに「南相馬住民の尿検査による内部被曝調査と土壌粉塵吸入による影響」が掲載されました。

 

環境放射能研究会は主催:高エネルギー加速器研究 機構 放射線科学センタ,日本放射化学会 α放射体・環境放射能部会、共催:日本原子力学会 保健物理・環境科学部会、日本放射線影響学会,日本放射線安全管理学会 によるもので毎年3月に開催されています。そこでの口頭発表後、論文化、査読を経て掲載されるものです。

 

放射線防護に関わる「権威」ある研究会論集に本論文が掲載されたことの意味は大変大きいと考えております。12月17日の汚染土再利用反対の院内集会での小生のプレゼンもこの研究に基礎づけられています。

 

本論文の抜き刷り版はこちらからDLできます。

 

小論の「はじめに」および「謝辞」の部分をここに紹介します。

1.はじめに
福島原発事故を起因とする放射性Cs 摂取による内部被曝については、山菜、野生キノコ等極めて
高い食品についての情報は一般的に理解されており、コントロールも比較的容易であるが、土壌
粉塵の再浮遊と吸入摂取による影響がどの程度のものであるか、という点について実証的な研究
やデータはほとんどない。コントロールも難しく、慢性摂取状態になることが予想されることから、
詳細な調査が必要である。
我々は既に2014 年に避難指示が解除された南相馬市原町区西部地域の住民の尿検査による内部
被曝実態調査を2017 年から2021 年にかけて実施した。その結果、対照群である西日本
(兵庫県、福岡県)住民と比べ、明らかに内部被曝している実態を明らかにした[1]。しかしこの
調査では、その要因である食品摂取、大気中粉塵の吸入の程度などは明らかでなく課題として残
された。今回、同地域住民を対象に、食品中のCs 摂取および大気中粉塵と内部被曝影響の関係に
ついて調査を行った中で,大気中のCs 粉塵の吸入による影響が無視できないことが判明した。
福島原発事故から13 年が経過し、避難指示区域は既に全て解除され、帰還困難区域においても
特定復興再生拠点として避難指示の解除が始まっている。この解除基準は、「除染により放射線量
が概ね5 年以内に避難指示解除に支障ない基準以下に低減」というものであり[2]、事実上従来の
避難指示解除と同様に空間線量率で評価されている。一方で福島県の面積の70%は山林であり、
この山林の除染はほとんど行われていない。既に解除された地域においても宅地周辺の空間線量率
が再上昇している場所があり、周辺の山林等の影響によると考えられる。特定復興再生拠点は福島
第一原発周辺の高濃度に汚染された地域や放射性プルームの影響により高濃度に汚染された山林に
囲まれた場所であり、粉塵吸入による内部被曝について懸念が残る。避難指定解除は放射線被曝
影響を受けやすいとされる乳幼児、妊婦などを含め特段の制約なく生活をしてよいことを意味する。
本研究の成果は,こうした期間ありきの政策の妥当性に大きな疑問を呈するものとなった
※下線は引用者による。

5.謝辞
本研究に当たり、南相馬市住民の検査や戸別訪問調査にあたり南相馬市在住の小澤洋一氏のご
尽力
があったことを、ここに記して感謝申し上げます。論文化にあたりご助言いただいた鈴木譲
東大
名誉教授に感謝いたします。また本研究は高木仁三郎市民科学基金、パタゴニア日本支社
環境助成金
プログラムの助成を受けて実施できましたことを報告し感謝の意を表します。

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Proceedings全体はこちらからDLできます。

 

2024/12/19

【集会報告・資料他】12.17院内集会:あなたのまちに放射能汚染土がやってくる 止めよう汚染土再利用!

12月17日の院内集会には会場に約50人、オンラインで約110人、合計160人の方が参加されました。

また、8名の国会議員と1議員団事務局の方々の参加と発言もあり、環境省の進める汚染土再利用を何としても止めようという熱気あふれるものとなりました。

 

参加された国会議員と関係団体は以下の方々です。ありがとうございました。

川田 龍平(立憲民主党 参議院)
松木 けんこう(立憲民主党 衆議院)
上村 英明(れいわ新選組 衆議院)
佐原 若子 (れいわ新選組 衆議院)
山本 太郎 (れいわ新選組 参議院)
福島 みずほ(社民党 参議院)
川原田 英世 (立憲民主党 衆議院)
大椿 ゆうこ(社民党 参議院)
前田 義則(日本共産党国会議員団東京事務所)

 

ユープランさんが録画をしてくれました。下記から見ることが出来ます。

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プレゼン資料および配布資料はこちらからDLできます。

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汚染土再利用について・・和田 央子(本会・放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)

土壌粉じん吸入被ばくの危険性・・青木 一政(本会・ちくりん舎)

20241217院内集会30年中間貯蔵施設地権者会 門馬好春

 

 

集会後多くの方からアンケート回答をいただきました。下記に紹介いたします(個人情報は割愛させていただきました)。

【アンケート】12.17院内集会・あなたのまちに放射能汚染土がやってくる 止めよう汚染土再利用!(回答)※12月20日更新しました。

東京新聞さんが報道してくれました。

 

2024/12/03

<訓練の監視と調査>能登半島地震と原発避難問題

みなさまへ 阪上です。長文ご容赦ください。

 

 11月23日~25日の日程で、能登半島地震と原発避難問題をテーマに、原子力防災訓練の監視と能登現地の調査活動を行いました。原子力規制を監視する市民の会とFoE Japanから合わせて7名、柏崎刈羽から2名が参加。現地は珠洲の北野進さんに2日間にわたりご同行・ご案内いただきました。ありがとうございました。

 

まだまとまりのない状況ですがざっと、問題に感じたことを書き出してみました。各地で原発の稼働・再稼働をとめるための材料にしていただければと思います。

 

 24日の原子力防災訓練は◆オフサイトセンター運営訓練、◆原子力防災用エアテント展開訓練、◆無人機による緊急時モニタリング訓練、◆避難退域時検査訓練、に立会いました。なお、◆船舶を使った避難訓練については、前日の荒天で船の準備ができなかったという理由で中止になりました。立会いはできませんでしたが、◆孤立集落を想定したヘリを使った訓練は実施されました。

 

 24日午後と25日の調査活動は、〇地震被害(志賀町富来地区)、〇被災した放射線防護施設(富来小学校・志賀町総合武道館)、〇地震断層(富来川南岸断層)、〇地震・津波被害(珠洲市宝立町)、〇珠洲原発予定地/地震・水害被害/隆起地形/孤立集落(珠洲市高屋地区)、〇地震・水害被害/孤立集落/隆起地形(珠洲市大谷地区)、〇5.2メートルの隆起地形(輪島市門前町深見漁港)、〇原発から1.5キロで孤立する可能性がある集落(志賀町福浦地区)、〇被災した放射線防護施設(志賀文化センター)を回りました。志賀文化センターについては施設の方に中を詳しくみせていただきました。

 

 原子力防災訓練について、地元団体は、これまでの訓練について能登半島地震を踏まえた反省がなにもなされていないことを問題にし、今年の訓練を中止するよう要望していました。しかし石川県は、住民の参加はなし、住民役を職員が行う形で例年より規模を縮小して訓練を強行しました。

 

 志賀原発周辺で震度7を観測する地震が発生し、志賀原発で放射能を放出する重大事故が発生との想定で、事前に配られた資料には、能登半島地震を踏まえ、孤立集落を想定した複合災害対応訓練も行うとし、放射線防護施設が被災して使えない想定で、原子力防災用エアテントを広げる訓練、モニタリングポストが一部使えない想定で無人航空機を用いたモニタリングを行う訓練なども行うとありました。しかし、監視した結果、能登半島地震の現実から学んでいない、ご都合主義の訓練でした。原子力防災テントや無人機の訓練に至っては、業者の売り込みの場になっていました。

 

 訓練のシナリオ

   7:00 志賀町で震度7を観測する地震発生

   8:30 高圧系注水ポンプ不可 施設敷地緊急事態 PAZ要支援者の避難 UPZ屋内退避

   9:30 低圧系注水ポンプ不可 全面緊急事態 PAZ避難 UPZ屋内退避・避難準備

  11:00ごろ 放射能放出 緊急モニタリングによりUPZも一部避難

 

★孤立集落問題(原発の近傍で孤立集落が生じる想定なし)

 

 訓練監視の一つのポイントは、奥能登の状況が志賀原発周辺で生じる想定をきちんとしているのかどうかでした。訓練は原発のある志賀町において震度7という想定になっています。能登半島地震の際、原発サイトは震度5弱でしたから、それよりも大きい想定をしなければなりません。しかし、訓練のシナリオは、原発の北10キロ弱の富来地区及びさらに北側の奥能登方面で避難が困難となる被害が発生し、原発の近傍及び南側では奥能登ほどの被害はなく、道もすべて通れるという都合のいいものでした。

 

 オフサイトセンターの運用訓練をみていると、地震発生(想定)の7時からすぐの7時10分には、原発から北側の地区の避難先が奥能登から金沢方面に変更されるのですが、原発周辺のPAZ(5キロ圏)については、8時30分の施設敷地緊急事態を受けて8時50分に開かれた最初の対策本部会議でも、道路はすべて通れるとの報告がなされていました。

 

 原発の近傍1.5キロ北側の志賀町福浦地区は海辺の集落ですが、山が海にせり出した地形で、丘の上を走る幹線道路まで少し山道を登らなければなりません。高齢者などは車がないと避難は難しいでしょう。複数のルートはあるのですが、珠洲市高屋地区では能登半島地震で海沿い、山越えの4つのルートすべてが塞がれ、孤立集落となりました。PAZの場合、事故により放射能が放出される(訓練では11時ごろ)までの短時間に避難を終えていなければなりません。

 

 地区は旧福浦小学校が一時避難所となり、そこが放射線防護施設になっているのですが、旧福浦小学校は丘の上の幹線道路沿いに立地しており、そこまでたどり着かなければなりません。また、放射線防護施設は地震により、空気を浄化するための陽圧化装置が動かない可能性があります。動いたとしても収容可能人数は93人で、地区の全員を収容することはできません。ヘリコプターが降りる場所もありません。港はありますが、都合よく船が調達できるのか不明ですし、隆起により港が使えなくなる可能性もあります。

 

 変動地形学者は、富来川南岸断層が原発のすぐ沖の海底まで伸びている可能性を指摘しています。原発敷地付近で、奥能登と同様の揺れと隆起が生じる可能性は十分にあり、そのような想定をしないと意味がないと思われます。

 

 訓練では、孤立集落対策として、原発から25キロ北にある門前高校から住民をヘリで原発の南側に搬送し、そこからバスで退域時検査所に運ぶ訓練が行われました。しかし、能登半島地震では、孤立集落にヘリが行っても降りる場所がないという状況が発生しました。また、集落全体が孤立した場合にヘリの輸送で間に合うのかといった問題があります。

 

 また、原発から9キロほど北にある富来漁港を孤立集落の港とみたて、海上保安庁の船舶で沖合の海上自衛隊船舶に乗り換え、金沢港に搬送する訓練も行われる予定でした。当日は晴天で波も穏やかだったのですが、前日が荒天で、船舶を所定の場所に移動することができず、この訓練は中止となりました。地震により、たとえ船舶が調達できたとしても、隆起により港が使えない可能性が十分にあります。

 

★全面緊急事態で「屋内退避の徹底」の指示

 

 オフサイトセンターの運営訓練は私たちは施設敷地緊急事態まででしたが、その後、監視を続けた方によると、9:30の全面緊急事態により、屋内退避を徹底するよう指示があったとのことです。しかし能登半島地震では、本震の後も屋内に留まっていた方が、余震や土砂崩れで亡くなったケースがありました。「屋内退避の徹底」が被害を拡大する可能性はないのか。

 

★放射線防護施設が使えない(原子力防災用テントの訓練は業者による売り込みの場に)

 

 避難が困難な要支援者のために設置されているのが放射線防護施設です。病院や介護施設、学校、公民館、体育館などの一部の部屋を気密化し、高性能フィルターをつけた空気浄化装置を通した空気を送って圧力を高くし、外から汚染された空気が入らないようにしています(「陽圧化装置」といいます)。特にPAZ(5キロ圏)では、通常の避難所で屋内退避をしても、非常に高い線量の被ばくが強いられるので、陽圧化装置を付けた放射線防護施設に避難しなければなりません。

 

 ところが能登半島地震では、志賀原発周辺にある20の放射線防護施設のうち、PAZにある3つの施設すべてとUPZにある一部施設が使えませんでした。PAZにある特別養護老人ホームとUPZにある町立富来病院はスプリンクラー稼働による浸水で区画への侵入ができませんでした。PAZにある志賀町総合武道館は施設の損傷により使用不可、外から見学しましたが、窓が割れ、窓枠が歪んでいたり、基礎と道路に隙間ができていたりしました。PAZにある旧福浦小学校は施設の立入りはできますが、陽圧化装置が正常に作動しない可能性があるとのことです。

 

 原発から7キロほどの志賀町文化ホールは、放射線防護施設と陽圧化装置まで案内してもらったのですが、3階の3部屋の区画が気密扉で囲われ、窓側には鉛の入ったカーテンがありました。陽圧化装置はダクトとフィルターと操作パネルがありました。フィルターは3つあり、中央は高性能のへパフィルターとなっていました。案内にあたった施設の方は、問題なく使えるはずだと言っていましたが、別の部屋は壁にひび割れがあり、施設そのものの耐震性について調査中とのことでした。

 

 電源は非常用発電機を使うとのことですが、エレベーターは使えないので、要支援者を3階までどうやって運ぶのか、また、いざというとき、誰が操作するのか決まっていないと聞きましたのでそこも問題かと思いました。100人の収容が可能で、3日間生活するための水や食料を備蓄しているということですが、孤立により100人を超える人が来た場合にどうするのか、また、3日間を超えて避難が必要になる場合にどうするのかといった問題があります。

 

 訓練では、放射線防護施設が使えない前提で、原子力防災エアーテントの展開訓練が行われました。放射線防護施設が使えない前提は、能登半島地震の現実に即したものだと感じました。訓練の会場に行くと、小学校の体育館の中で、2つの業者がエアーテントを膨らませるデモンストレーションを行っていました。30人ほど収容できるテントが瞬く間にできあがりました。そこに、簡易的な陽圧化装置を接続して、発電機で起こした電気で浄化した空気を送り続けると説明がありました。業者に話を聞くと、聞いてもいないのにもう一方の業者の製品の弱点を話はじめる始末で、現場は売り込みの場と化していました。

 

 そこに馳浩知事がやってきて、軽い調子で業者に質問。「これはいくらなの?」「テントが120万円、陽圧化装置が180万円、合わせて300万円です」「あっちは500万円だね。安いね」職員に「買ったらどお?」志賀町の職員「うちはもう買いました」…とても聞いていられない会話でした。500万円の方は三菱重工が噛んでいて、全国10自治体、25件の受注が既にあると言っていました。別に東芝も参入しているようです。放射線防護施設の陽圧化装置は1か所2億円ですので、確かに安いのですが、果たしてこれで代わりになるのか?フィルターの性能は?鉛のカーテンの代わりは?陽圧化装置の保管場所の耐震性は?収容人数が少ないのではないか?どこにどうやって運ぶのか?疑問は尽きません。

 

★無人機によるモニタリング訓練…ドローン業者によるデモンストレーションの場

 

 日本製で農薬散布に使われている無人小型ヘリコプター、ラトビア製の無人小型飛行機、中国製のドローンの実演が行われましたが、ラトビア製の無人機について、ドローン業者はイスラエル空軍が受注していることを堂々と話していました。ラトビアの会社は軍事用ドローンの製造会社でした。身の毛がよだちました。馳浩知事は、中国製のドローンが気に入らないようで、なぜ日本製を使わないのか、データが抜き取られるのではないか、人は乗れないのかなどと的外れの質問を繰り返していました。

 

★退域時検査(これで被ばくを見つけるのはとても無理)

 

 退域時検査については、すべて内閣府のマニュアル通りにやっていると説明していました。車の外からモニタリングゲートでタイヤの測定、その後、ガイガーカウンターでタイヤとワイパーの測定、基準を超えれば代表者の測定、代表者が基準を超えれば全員の測定という手順でした。車の除染はウェットティシュによるふき取りだけでした。人の測定は、別室で、服も靴もそのままでガイガーカウンターを外からあてて、基準を超えれば除染して再測定という流れですが、訓練は、手の平か手の甲のどちらかで基準を超え、その部分だけをウェットティシュでふき取り、もう一度測って基準を下回れば通過証がもらえるというものでした。

 車のタイヤとワイパーだけの測定で中の人の全員の被ばくを判断するのはやはり無理がありますし、人の測定にしても、内部被ばくの状況はとても把握できないだろうし、また、服や靴が汚染されている場合には、測定にあたる人も被ばくを強いられる流れになっていると感じました。

 

阪上 武(原子力規制を監視する市民の会)

 

★原発周辺で震度7の地震が発生しているのにPAZ(5キロ圏)では孤立集落が生じない想定…現実には原発から1.5キロ地点に孤立する可能性がある集落がある。

★海路避難…当日は晴天で波も穏やかだったが、前日の荒天で船の移動ができず、結局訓練は中止に

★空路避難…原発北側の孤立地区からヘリで原発南側に搬送する訓練が行われたが、孤立集落にヘリが下りる場所が確保できないというのが能hが使用不能となった場合の原子力防災用エアテント展開訓練…原発関連企業の売り込みの場だった。ガンマ線の遮o蔽はできない。ひとつのテントに30人ほどしか入れない。

★原発北側の地域の避難先を奥能登から金沢方面に変更…原発の近傍を通って避難しなければならない

★UPZは屋内退避のよびかけ…能登半島地震では屋内にいた方が余震や土砂崩れなどで亡くなったケースが多い

★退域時検査は車を測ってふき取り除染。車で値を超えたら乗っている人の測定を行うが、訓練では手のひらか手の甲のどちらかだけに反応。濡れティッシュで拭いたら線量が下がり退出。これで被ばくを見つけることはできない。

★被災した放射線防護施設…陽圧化装置は立派だが、誰がどのタイミングで操作するのか不明だった。隣の部屋は壁にひび割れが多数。施設の健全性に疑問がありこれを使うかどうかは検討中

★5.2メートルの隆起で漁港まるごと干上がっていた…原発があれば建屋が傾き、取水口が干上がることに

★変動地形学者が能登半島地震で連動の可能性を指摘する富来川南岸断層…北陸電によるボーリング調査が行われていた。変動地形学者はこれが原発のすぐ沖の海底まで伸びている可能性を指摘する

 

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