9月20日,東電本社で市民との交渉が行われました。同時に,中越沖地震の柏崎刈羽原発での観測波を各地の原発,もんじゅ,再処理工場などに入力した際の確認結果が一斉に公表されました。
▼東電が福島第一・第二原発に中越沖地震の観測値を使って行った確認作業は以下の3つです。これは全国の原発,もんじゅや六ヶ所再処理工場などの原子力施設で同様に行われ,昨日公表されています。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/07092002-j.html
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■ステップ1-その1
各原発で耐震設計で用いた設計用地震動S2による原子炉建屋の基礎マットでの床応答スペクトルに,柏崎刈羽1・4号機で観測された基礎マットの床応答スペクトル(1・4号機の南北・東西を包含させて一つにしたもの)とを重ね書きし,その上で機器や配管の固有周期について,
α=観測値/S2による応答値(応答加速度のスペクトル比)
を算出。αが1を超えると,柏崎刈羽原発での応答加速度がその原発のS2による応答加速度を上回ることになる。
■ステップ1-その2
αが1を超えた場合は許容値と比較する。許容値には,弾性限界を超えて変形を起こすかどうかが問題となるS1許容値と,破壊が問題になるS2許容値の2つがあるが,今回の確認作業で使ったのはS2許容値の方。まず,対象施設のS2による応答値(機器や配管は発生応力,制御棒は最大振幅)と破壊限界に対応するS2許容値について比をとる。
β=S2許容値/S2による応答値(発生応力の比,制御棒は最大振幅の比)
これをαと比較し,α>βであれば,観測値がその原発におけるS2許容値を上回ることになる。
■ステップ2
α>βとなった場合,対象施設ごとに個別検討を実施する。
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▼ステップ1,2は報告書にある表現です,ステップ1の中にさらに二つのステップがありややこしいので勝手にその1,その2としました。本来ならステップ1,2,3にすべき所でしょう。東電には文句を言っておきました。
▼確認の対象施設は,原子炉圧力容器(支持構造物),炉心支持構造物(シュラウドサポート),残留熱除去系ポンプ(基礎ボルト),残留熱除去系配管(配管本体),主蒸気系配管(配管本体),原子炉格納容器(ドライウェル),原子炉建屋(耐震壁),制御棒(挿入性)の8箇所となっていました。再循環系配管はなぜないのかと聞いたのですが,その場で回答はありませんでした。
▼福島第一・第二の場合,他の原発と比べても確認の結果は厳しいものになっています。制御棒(挿入性)については,福島第一1~5号機でステップ2まで進んでいます。ステップ2では詳細な検討で応答値(最大振幅)を算出し直し,それと許容値を比べてOKにしています。
▼他の機器・配管も,ほとんどがステップ1-その2まで進んでいます。そこでα<βだからOKとなっています。しかし,ホントにぎりぎりのものが多々あります。以下がその例です。
福島第一2号機 残留熱除去系ポンプ α=2.62 β=2.71
福島第一2号機 主蒸気系配管 α=1.51 β=1.54
福島第一3号機 残留熱除去系ポンプ α=2.99 β=3.03
福島第一3号機 原子炉格納容器 α=2.99 β=3.16
福島第一5号機 残留熱除去系ポンプ α=2.82 β=3.00
福島第二2号機 残留熱除去系配管 α=2.67 β=2.89
福島第二3号機 炉心支持構造物 α=2.65 β=2.78
▼ここら辺は,破壊が問題となるS2許容値との間にほとんと隙間がありません。この計算では,ひび割れや減肉などの老朽化の影響は全く考慮されていませんから,破壊に至る可能性があると見てもいいでしょう。それに変形を引き起こす弾性限界に対応するS1許容値は,とっくに超えているはずです。
▼さらに数値をよく見ると,β=許容値/応答値 の算出に当たって,地震力だけをとりだして比をとっているものがありました。地震力だけで比較すること自体は,おかしなことではないと思いますが,これを他の機器と同じように地震力以外も含めて比をとるとα>βとなりますから,αをβの中に強引に押し込めるための措置にみえます。例えば,福島第二4号機の主蒸気系配管は,βの算出については,地震力だけで比較したとの注意書きがあり,
α=2.51 β=3.27
でセーフとなっていますが,他の機器と同様に,地震力以外の力も含めて比をとると,
α=2.51 β=2.16
と逆転してしまいます。
▼交渉の場では,上記のように余裕のないものが多々ある以上,福島第一・第二原発についても直ちに止めるよう口頭で要請しました。
▼さらに,今回の確認に用いた観測値が,解放基盤表面のものではなく,基礎マット上のものであることの問題についても議論しました。
柏崎刈羽の基礎マット上の観測値は,柏崎刈羽原発の地盤の特性の影響を受けてしまっています。他の原発の場合,それぞれの地盤の特性を考慮するためには,基礎マット上のものではなく,さらに地下深い解放基盤表面での値を使わなければ意味がありません。特に柏崎刈羽の場合は,昨日東電から受けた説明によると,地盤がやわらかく,解放基盤表面が他の原発よりも深いので,減衰効果により,基礎マットでの揺れが地下深くの観測値に比べて小さくなっているというからなおさらです。他の原発が中越沖地震と同様の地震に襲われた場合,解放基盤表面でのより大きな揺れが,ほぼそのまま建屋を襲う所もあるでしょう。
今回の確認で,解放基盤表面の値を使わなかったのは,東電が地中の地震波記録を上書きで失ったために,解放基盤表面での応答スペクトルの再現作業が遅れているためです。しかし東電は,余震データやサービスホール下の地中データなどから再現すると断言しています。であればそれを使って評価すべきです。このことを強く要請しました。
▼今回の確認作業では,肝心の柏崎刈羽原発での評価が行われていません。柏崎刈羽原発については,基礎マットの観測値をそのまま使って問題ないでしょう。これでS1許容値を超えて変形を起こす領域に入ったことが明確になるはずです。
▼この辺りについて東電の回答は妙なものでした。柏崎刈羽原発の評価は,再現する解放基盤表面における応答スペクトルを用いる。他の原発では,基礎マット上での観測値を用いた今回の確認しか行わず,再現した解放基盤表面のものは,新指針対応の中でなんらかの形で考慮するだけだというのです。やっていることが逆です。推進側は,とっとと確認を済ませて他の原発への波及を止めたいのでしょう。各地で,解放基盤表面での応答スペクトルを使わなければ意味がないと詰め寄っていきましょう。
▼柏崎刈羽については,弾性限界を超えた確認の公表を遅らす一方で,マダラメ委員会下のワーキンググループに維持基準を作った学者を集め,弾性限界を超えた機器を動かす為の地震版維持基準作りを進めようとしています。このワーキンググループについては,検討項目から,弾性限界を超えた場合の検討を外させましょう。
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