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2007年8月17日 (金)

原発直下に延びた断層にアスペリティ(強震動を引き起こす固着域)が!?

■アスペリティを原発直下においた入倉氏のモデル

8月10日に開かれた原子力安全委員会「耐震安全性に関する調査プロジェクトチーム」第3回会合の資料がアップされました。
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/taishinpjc/taishinpjc003/taishinpjc003.htm

この中に,中央防災会議や耐震指針検討分科会(新指針策定会議)の委員でもあった元京大教授の入倉孝次郎氏のモデルが提示されています。入倉孝次郎地震動研究所のサイトにも報告があります。
2007年新潟県中越沖地震の震源断層と強震動-柏崎刈羽原子力発電所を襲った破壊的強震動-(耐震プロジェクトチーム第3回会合資料)
強震動記録から見た2007年新潟県中越沖地震の震源モデルの検討(入倉氏他)

入倉氏は強震動の第一人者で,新しい指針で原発の耐震設計に取り入れられる断層モデルによる強震動予測のモデル(入倉レシピ)を作った人でもあります。浜岡原発運転差止訴訟では,原告被告双方の証人として証言したのですが,証言内容はどちらかというと被告中部電力側の意向に沿うものでした。そんな入倉氏が、「柏崎刈羽原子力発電所を襲った破壊的強震動」という刺激的な副題をつけた報告を原子力安全委員会に設置された委員会に報告したのです。

入倉氏は,この地震の断層が,南東傾斜(原発に向かって下がる)か北西傾斜(原発に向かって上がる)かについては,まだ決着していないとしながらも,「震源近傍の強震動記録からは北西落ちが有力である」とし,北西傾斜の断層の中に3つのアスペリティ(特に強い揺れを発生する固着域)を設定したモデルを提示しています。断層は原発直下に延びており,アスペリティは海岸線に沿って並んでいます。中央のアスペリティは原発の直ぐ沖合の深さ5kmの辺りにまで達しており,その延長線上に原発があるという具合になっています。

Irikura1

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さらに,入倉氏は,柏崎刈羽原発の地下5階で観測された強震動波形は3つの顕著なパルス波をもつとし,柏崎刈羽原子力発電所を「キラー・パルス」が襲ったとしています。「南東上がりの震源断層面にある3つのアスペリティから地震動は指向性効果によりパルス的な形状を持つことが示された。このような破壊伝播方向に生じるディレクティビティ・パルス波は1995年阪神・淡路大震災のときに構造物の破壊を引き起こすキラーパルスと同様のものと考えられる。」と説明しています。

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柏崎刈羽原発における観測波(速度波形)に現れた3つのアスペリティによる3つの波
2007年新潟県中越沖地震の震源断層と強震動-柏崎刈羽原子力発電所を襲った破壊的強震動-(耐震プロジェクトチーム第3回会合資料)より
東電が公表した波形は以下の報告書の中にあります
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu07_j/images/070730d.pdf

■アスペリティを原発直下におく意味

入倉氏が,断層を原発側にのばし,強震動を引き起こすアスペリティをほぼ直下にもってきたことにはどのような意味があるのでしょうか?

うがった見方をすれば,今回の柏崎刈羽の事態を他の原発の耐震問題に波及させないために特殊な要因をもってきた,となるのかもしれません。特にキラーパルスの話はそのようにも見えます。しかし,柏崎刈羽原発で観測されたすさまじいデータから,モデルが正しいと信じれば,アスペリティを直下にもって来ざるを得なかったというのが実のところではないでしょうか。

たかだかM6.8の地震によって引き起こされた原発での揺れはすさまじいものでした。地表面は,5号機で1567ガル,1号機で1259ガル(水平方向合成値)でした。原発以外のサイトで1000ガルを超えたのは,旧西山町1018.9ガル(3成分合成)くらいです。1号機の地下250メートルの解放基盤表面相当の地盤でも993ガル!!,建屋では1号機の基礎で680ガル,タービン建屋の1階で2058ガル,応答スペクトルも4号機ではほぼ全ての領域で設計の2倍程度といった数値が並んでいます。

■釜江氏のモデルもアスペリティが原発直下に

京大原子炉実験所の釜江克宏氏は当初,南東傾斜の断層にアスペリティを2つ配置したモデルによる計算を行いました。しかしそれでは,柏崎付近の揺れ(特に速度震幅や変位震幅)が再現できず,原発周辺に第3のアスペリティを置く必要があるとし,新たに,北西傾斜の断層にアスペリティを3つ配置したモデルを提起しています。入倉氏のモデルに似ているのですが,原発に最も近いアスペリティが一番南東にあるなど,入倉氏のモデルとは異なる点もあります。

当初のモデル(新潟県中越沖地震の震源のモデル化 Ver.1)
福井県原子力安全専門委員会の資料(当初のモデル→新モデルの提起)
新しいモデル(新潟県中越沖地震の震源のモデル化 Ver.2)

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■断層モデルが原発耐震問題に与える影響

アスペリティが直下にあるかもしれないというのは,これはこれで他の原発の耐震問題にも十分に影響を与える問題を含んでいます。浜岡原発運転差止訴訟で,アスペリティを原発直下にもってくるのに苦労した経験からは感慨深いものさえあります。以下,断層モデルごとに原発の耐震評価との関係を考察してみました。

1.南東傾斜(原発に向かって下がるモデル)

最大余震を含む余震分布などから有力視されているモデルです。この場合には,震源断層が原発の沖合20kmあたりで確認されている海底活断層につながりますから,この海底活断層について,東電が調査で発見していながら,長さをわずか8kmに値切って無視したという経緯が直接的に問題になるでしょう。さらに,このモデルの場合には,断層が原発から比較的離れた位置にあるので,なぜ震源断層が離れているのに原発だけが激しく揺れたのかが問題となるでしょう。新指針により導入される入倉氏の断層モデルや大崎スペクトルに代わって断層の広がりやアスペリティが考慮できるとのふれこみで登場した耐専スペクトルも,断層が遠くて小さな揺れしか再現できないでしょう。過小評価が問題となり,モデルが使い物にならないということになるでしょう。さらに,原発の揺れやすい地盤にも焦点があたるでしょう。

2.北西傾斜(原発に向かって上がるモデル)

地殻変動のデータなどから有力視されているモデルです。海底活断層の値切り問題については,やや後景に退くかもしれません(もちろん免罪される訳ではないのでこれはこれで問題にしなければなりません)。アスペリティを直下にもってくれば,モデルの正当性というのも問題にならないかもしれません(というか,モデルを正当化するためにアスペリティをここにもってきたのでしょう)。問題は,断層が原発直下に広がっていてアスペリティが直下にあるというような想定が,設計段階でできるのか,そもそもこのような場所に原発を立地してよいのかということでしょう。設計段階の想定については,例え東電が,活断層の値切りを行わなかったとしても,直下に延びた断層にアスペリティなどという想定はできなかったでしょう。新指針対応にしてもそうです。

中部電力は,浜岡原発3・4号機について新指針に対応した耐震報告書を他の原発に先駆けてことし2月と3月に提出しています(早いのは裁判対策でしょう)。新指針は,基準地震の想定に際しては,起こりうる最大の地震にさらにばらつきや不確かさを考慮する事になっています。中部電力は,想定東海地震に対し,ばらつき・不確かさとしてアスペリティを原発直下に移動させた仮想的東海地震というものを想定してこれをもとに基準地震動を作成しています。これに対し,原告は,アスペリティを直下にもってくるだけでは当たり前の東海地震にしかならない,深さや枝分かれ断層の影響なども考慮しないと新指針の要求に従ったことにはならないと反論しています。

入倉氏のモデルに従えば,今回の中越沖地震では,その「仮想的」を超える事態が現実に起こってしまったということになります。現実に従えば,活断層が原発直下に延びている,震源を浅くする,アスペリティを直下に想定する,というのは当たり前にやらなくては行けないことで,さらにばらつきや不確かさを考慮しなければなりません。そのような想定を行っている原発は日本にひとつもありません。

3.南東傾斜+北西傾斜(産業総合研究所のモデルなど)

南東傾斜と北西傾斜の両方が動いたというモデルもいくつか提示されています。産業総合研究所のモデルは,南東傾斜が主断層,そこから北西傾斜の分岐断層が原発に向かって延びているというものです。この場合には,1.と2.で考察した両方がいろいろな形で問題となるでしょう。

4.旧指針の評価方法は問題外

旧指針下では行われていた,活断層を地表面に現れている所だけを評価し,その真ん中に震央を置いて,地震を想定するというようなやり方が通用しないというのは,どの断層モデルについても言えるでしょう。それだけでも,既存の全ての原発の耐震安全性が問題になるでしょう。

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