32 放射能の放出

2007年8月 9日 (木)

原発災害が現実となった7号機からの放射性ヨウ素の放出

地震による放射能放出

地震の発生に伴い,7号機の主排気筒から放射性ヨウ素および放射性粒子状物質(クロム51,コバルト60)が放出され,これが2日後の18日まで続きました。このうち,放射性ヨウ素は合計で約4億ベクレルが放出され,その大部分は地震発生の7月16日に放出されたヨウ素133によるものと推定されています。

住民には知らされず

放射性ヨウ素の放出は16日には周辺住民に知らされませんでした。東電は17日午後になって放射能の放出を点検し,ようやくプレス発表しました。原発からの放射能の放出は直ちに周辺住民に知らせなければ適切な対応ができません。

万一大量に放出されるならば周辺住民が深刻な被曝を受けます。ヨウ素は,成長にとって必須なミネラルであり,人がこれを吸い込むと甲状腺にせっせとため込みます。放射性ヨウ素はそこで内部被曝をもたらします。特に影響を受けやすいのが成長期の子供や赤ちゃんです。原発の事故時にヨウ素剤の摂取が問題になるのはそのためです。今回の事実経過は,東電が周辺住民の被曝防止をいかに軽視しているのかを明らかにしました。

被曝線量の評価

東電は19日に,放出放射性ヨウ素による周辺住民の被曝線量は,約1千万分の2ミリシーベルトとの評価結果を公表し,一般公衆の線量限度1ミリシーベルトと比較して十分低いと説明しました。放出された放射性ヨウ素約4億ベクレルは,法令のヨウ素131を吸収摂取した場合の実効線量係数(1ベクレル当り10万分の1.1ミリシーベルト)を用いると4400ミリシーベルトに相当します。この実効線量係数は,ICRP(国際放射線防護委員会)の1990年勧告に基づいています。

東電のリスク評価は過小評価

しかしICRPのリスク評価には過小評価があります。低線量被曝のリスクをより正当に評価したECRR(欧州放射線リスク委員会)は2003年に,ヨウ素131を吸収摂取した場合の実効線量係数を,1歳未満の幼児に対してICRPの50倍厳しい値にすることを勧告しています。胎児に対してはさらに10倍厳しい値を用いることを勧告しています。

ECRRの胎児に対する実効線量係数を用いると,放出された放射性ヨウ素全体が与える被曝線量は4400ミリシーベルトの500倍,すなわち220万ミリシーベルトになります。

これが主排気筒からの放出の過程で200万倍程度に薄められるとしても,周辺住民は1ミリシーベルトの被曝をする可能性があります。東電はこれを20億倍に薄めて評価しています。その根拠は示されていません。

放射性ヨウ素は燃料で生まれる核分裂生成物

また何よりも放射性ヨウ素が放出されたこと自体が問題です。放射性ヨウ素はウランの核分裂により発生する核分裂生成物です。したがって,燃料棒内でしか発生せず,燃料棒の破損による漏えいがない限りは,原子炉水には入らないはずです。この点,原子炉材のさびの放射化によって生成される放射性粒子状物質のクロム51、コバルト60などとは異なります。燃料棒の損傷があったのでしょうか。

燃料棒の損傷はないとの東電の説明

東電プレス発表(7月19日)では「7号機主排気筒放射線モニタおよびモニタリングポストに有意な変化はありません」と記されています。別の東電プレス発表には,「原子炉水のサンプリングの結果,燃料棒から原子炉水への放射性物質の漏えいがないことを確認しております」と記しています。しかし東電はこれらについて,元のデータを公表していません。

気体廃棄物処理系には活性炭式希ガスホールドアップ装置の前に核燃料棒のピンホールを早期に検出する目的で取り付けられている高感度オフガスモニタ(同位体を識別できる)があります。希ガスに敏感なモニタですが,東電によれば、今回の地震時には上昇しなかったとしています。

東電プレス発表は「さらに地震に伴う緊急停止時前後の高感度オフガスモニタ指示値が低下していることから放射性ヨウ素の放出の要因として燃料の損傷によるものは考えられない」と結論しています。

燃料棒の外側に付着したウランのカスが核分裂?

では放射性ヨウ素はどこで生まれたのでしょうか。東電によると,放射性ヨウ素は通常の運転時から原子炉水中存在するとし,東電プレス発表(7月19日)は,「運転中の原子炉水ヨウ素131濃度は、0.03ベクレル/グラム程度の通常値で推移していること、また、停止後採取の原子炉水ヨウ素131濃度は0.009ベクレル/グラムと低いこと」と説明しています。東電によると,これらの放射性ヨウ素は,核燃料棒被覆管の外部に存在するウラン(①製造時に核燃料棒被覆管の表面に付着したウラン、②原子炉内金属中の不純物として含まれるウラン)――これらのウランの核分裂生成物として存在しているとのことです。

しかし,燃料棒の製造過程において,被覆管の表面にウランのカスが付いてしまうということが本当に起こりえるのでしょうか。とても信じられません。東電はこの点についてきちんとした説明をしていません。

放射能の抜け穴…構造的な欠陥

今回の放出では,BWR原発に放射能の抜け穴があったことが明らかになりました。BWR原発では原子炉からの蒸気は主蒸気系配管を経て蒸気タービンを回転させた後(タービン停止時はタービンバイパス系を通って)復水器で水に戻されます。復水器には気体廃棄物処理系(図では、復水器→活性炭式希ガスホールドアップ装置→フィルタ→排気筒)があって、復水器内に貯まる放射性気体を抽出し減衰処理・回収するようになっています。

Tepcoyoso
<東電HPプレス発表より>
http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/press_kk/2007/pdf/19071901.pdf

東電プレス発表(7月19日)によれば、タービン建屋にある復水器の気体廃棄物処理系が地震でダウンしたために、復水器内の放射性気体はタービングランド蒸気系(図では、タービン→タービングランド蒸気排風機→ 排気筒)から、フィルタを通さずにそのまま放出されました。

タービングランド蒸気系はタービン主軸の蒸気による軸封じのために必要とされる系です。しかし,この系はフィルタを通さずに一次冷却系の放射性気体を放出する構造になっています。気体廃棄物処理系が動いていても,核燃料が破損すれば,このような抜け道から外部に大量の放射能が放出される危険があります。

また,東電は「タービングランド蒸気排風機の停止操作が遅れたため」「タービングランド蒸気排風機により吸引され、排気筒を経て今回の放出に至った」と推定しています。排風機を止めたのは7月18日午前10時56分であり,それまでは,排風機が動いていたままで放置されていました。東電の説明では、タービン停止に伴い排風機が自動的に停止するようにはなっておらず、手動で停止操作をするとのことです。排風機が停止していなかったことが何故分からなかったのかの説明はありません。

フィルタを通さずに一次冷却系の放射性気体を放出するルートが存在すること,緊急時にこのルートを閉じる作業が自動ではなく,手動であることは,BWR原発の構造的欠陥といえるのではないでしょうか。

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