放射能の風評被害(岩手日報論壇)
■放射能の風評被害
放射能の風評被害 佐々木富作 2006.2.23
東京海洋大の水口憲哉教授は、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の操業による海洋汚染について昨年、県内各地で精力的に講演した。先発の英国、フランスの周辺海域では放射能汚染が深刻な問題となり、水産物の放射能濃度が上昇しているという。
しかし、残念ながら県内の漁協や沿岸自治体は、この問題を深刻に受け止めていないようだ。
放射性物質から発する放射線は、身体を構成する原子の電離を引き起こすことによって体内細胞に影響を及ぼす。できる限り放射線の被ばくはないほうがいい。
しかし、私たちは微量ではあるが、常に自然放射線にさらされている。再処理工場から放射性物質が垂れ流しになれば被ばくの機会はさらに増える。道義的に考えてもこれは許されない。
放射性物質が人体に与える影響で代表的なのは、がんが発生することだ。放射線によって誘発されるがんと自然に発がんしたものの間には、病理学的にまったく相違がないと言われる。さらにガンの誘発は潜伏期を経て生じるため、放射線被ばくとの因果関係は不明瞭(めいりょう)とされる。したがって被ばくとがん発生との因果関係は疫学調査によってしか認めることができない。
学問的な因果関係が不明瞭ということは、放射線被ばくによる発がんと思われても、被害者は救済されない。がんになった人は悲惨だ。それならば放射能に汚染された水産物など食べないほうがいいに決まっている。
ここに風評被害の発生する構図がみてとれる。わが身わが子を思う消費者にとって、これは切実な問題なのである。
1981年に敦賀原発で起きた放射能漏えい事故では海藻類の放射能値が上昇したが、環境安全上、問題はなかったとされる。しかし、市場はそれを許していない。この風評被害で140億円もの被害補償がなされた。
これが岩手で起きたらどうなるかと考えただけでぞっとする。漏えい事故なら汚染は一時的だが、恒常的に放射性廃液を海中へ放出するとなると被害は甚大になる。
いったん三陸産の水産物が市場から拒否されたら、どうなるのか。沿岸市町村の経済的基盤は崩れ、自治体は破産する運命となる。岩手の海が汚染されたら、イメージダウンは必至であり観光客は激減する。県にとっても深刻な問題である。
反対運動の展開は当然のことだが、ここで早急にすべきは、加工業界も含めた各水産団体が日本源燃、青森県を相手取って被害補償の事前契約を結ぶことだ。さらに各自治体も予想される被害によるマイナス分の経済効果を試算し日本源燃、青森県に提示すべきだ。
これらの膨大な損害額を試算し提示することは再処理工場操業の抑止力にもなるのである。
(宮古市 漁業41歳)
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